観測史上最少の酸素量をもつ、宇宙初期の極小銀河
【2026年5月20日 金沢大学】
ビッグバン直後の宇宙には水素とヘリウムといった軽い元素しか存在せず、宇宙で最初期に誕生した「初代星」の内部で酸素や炭素が合成されて周囲にまかれることによって、様々な元素が宇宙に広がっていった。初代星が作り出した元素の痕跡を直接とらえることができれば、現在の宇宙に見られる銀河や星、さらに生命へとつながる物質進化の出発点を具体的に理解することができる。
金沢大学の中島王彦さんたちの研究チームはジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を用いて、エリダヌス座の方向に存在するきわめて暗く小さい銀河「LAP1-B」を観測した。この銀河は宇宙誕生から約8億年後(約130億光年彼方)の初期宇宙にあり、通常では観測が非常に難しい天体だが、私たちとLAP1-Bの間にある巨大銀河団「MACS J0416」(距離およそ40億光年)の重力レンズ効果によって光が増幅されているおかげで、詳細な観測が可能となった。

極小銀河「LAP1-B」と巨大銀河団「MACS J0416」。(背景)JWSTの近赤外線カメラ(NIRCam)がとらえたMACS J0416。(拡大図)JWSTの近赤外線分光器(NIRSpec)のデータを基に作成したLAP1-Bの3色合成画像(青:水素のLyα輝線、緑:酸素の[OIII]輝線、赤:水素のHα輝線)。「速度空間」を可視化したものであり、銀河の見た目の形状ではない(提供:NASA, ESA, CSA & K. Nakajima et al., Nature)
高感度分光観測の結果、LAP1-Bの酸素存在比(水素に対する酸素の個数比(O/H))が太陽の約240分の1と小さく、これまで観測された銀河の中でも極端に酸素が少ない水準であることが明らかになった。また、酸素に比べて炭素の割合がきわめて高いという特徴も示された。これらの元素組成は、初代星の爆発で生じると理論的に予測されてきた元素分布とよく一致している。初代星が作り出した元素が初めて銀河へ受け継がれる過程を、観測的にとらえることに成功した結果かもしれない。

銀河の酸素存在比(横軸)と酸素に対する炭素の割合(縦軸)の比較。LAP1-Bの値は初代星の爆発から生じるとされる理論予想(紫色の領域)とよく一致している。また、現代のUFD銀河(後述)の元素組成ともよく似ているが、LAP1-Bは130億光年彼方の天体であるという点が大きく異なる(提供:©K. Nakajima et al., Nature、以下同)
さらに、LAP1-Bの星の推定総質量が太陽の3300倍以下と非常に小さく、天体の大部分が未知の暗黒物質で構成されているらしいこともわかった。これらの特徴は、現代の宇宙で最も暗い銀河として知られる「超低輝度矮小銀河」(ultra-faint dwarf galaxy; UFD銀河)とよく似ている。これまでUFD銀河は、宇宙初期に誕生した化石天体と考えられながらも、その形成現場を直接とらえた例はなかった。LAP1-Bの発見は、UFD銀河の誕生や進化の仕組みを解明する重要な手がかりとなる。

銀河に含まれる星の総質量(横軸)と酸素の存在比(縦軸)。(茶色の点)これまでに発見された遠方銀河、(破線)現代の宇宙にある近傍銀河の傾向。LAP1-Bは星質量が非常に小さく酸素存在比が観測史上最少という、特異な性質をしている
元素組成と質量構造の両面からの分析という今回の手法は、元素合成の最初期の現場やUFD銀河の形成プロセスを検証するための新たなアプローチといえる。今後の観測では、宇宙で最初に誕生した初代星そのもので構成される「初代銀河」が同定されるかもしれない。
「これほどピュアな状態の銀河が存在し、その姿が克明にとらえられたことは驚きです。これまでの“宇宙考古学”では、現代に残る古い星から過去を推測してきましたが、今回は130億年前の“当時の現場のガス”を直接分析できたことに大きな意義があります」(中島さん)。
「UFD銀河は最も暗い銀河であるだけでなく、120億年以上前に生まれた古い星からなる天体で、“宇宙の化石”とも呼ばれています。LAP1-Bは、これまで推測されてきたUFD銀河の祖先の姿と非常によく似ています。この銀河を詳しく調べることで、UFD銀河がなぜ“宇宙の化石”として現在までその姿を保っているのかという謎に迫ることができると期待しています」(国立天文台/東京大学 大内正己さん)。
〈参照〉
- 金沢大学:宇宙初期に観測史上最少の酸素量を持つ極小銀河を発見 ―宇宙の化石天体の起源に迫る―
- Nature:An ultra-faint, chemically primitive galaxy forming in the reionization era 論文
〈関連リンク〉
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