「明月記」と古い樹木から見つかった、800年前の太陽プロトン現象

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鎌倉時代の日記「明月記」と、古い樹木に含まれる炭素の分析から、西暦1200年ごろに太陽プロトン現象が発生していたことが特定された。太陽活動の記録のない時代における太陽の振る舞いの理解につながる成果だ。

【2026年4月20日 沖縄科学技術大学院大学

太陽活動が極めて活発な時期には、太陽フレアの影響で強い磁気嵐が発生し、北海道や本州など低い緯度でもオーロラが観測されることがある。

こうした太陽表面の爆発現象はときに、高エネルギー粒子が高速で地球に向かって放出される「太陽プロトン現象」を引き起こすことがある。太陽プロトン現象は人工衛星や有人宇宙活動に深刻な影響を及ぼす可能性が高く、「アルテミス計画」などを進めていくうえにおいても、この現象の解明は最重要の課題の一つだ。

低緯度オーロラ
昨年11月北海道で撮影された低緯度オーロラ(撮影:GlayFoxさん

沖縄科学技術大学院大学の宮原ひろ子さんたち研究チームは過去の太陽プロトン現象を調べるため、まず歴史文献から分析対象の年代を絞り込んだ。手がかりとしたのは、鎌倉時代の歌人・藤原定家の日記「明月記」だ。定家は1204年2月、京都で「赤い光(低緯度オーロラ)」を目撃したと記している。プロトン現象自体がオーロラを起こすわけではないが、両者はしばしば付随して発生するため、オーロラの記録は調査年代を絞る有力な指標となる。

明月記
(左)江戸時代に描かれた藤原定家の肖像。(右)明月記の江戸期の写本。右側のページに北の空に赤い光が見えたという記述が確認できる(提供:(左)菊池与斎(パブリックドメイン)、(右)国立公文書館(パブリックドメイン)

次いで宮原さんたちは、明月記の記述をもとに、青森県で発掘されたアスナロの埋没樹林の年輪を調査した。太陽プロトン現象で放出される陽子の多くは地球磁場でそらされるが、とくに強い現象の発生時などには地球大気と衝突することがあり、この過程で「炭素14」が生成される。炭素14は有機物に取り込まれるので、樹木の年輪に含まれる濃度を測定すれば、プロトン現象の年代を推定できるのだ。

調査の結果、大規模な太陽プロトン現象を示唆する炭素14の急増が確認された。その規模は、1956年に人類が直接観測した最大級のプロトン現象の10倍以上だった。さらに、地域の気候に関連した年輪成長パターンの比較に基づく年代決定法(年輪年代学)により、この事象が西暦1200年冬から1201年春の間に起こったことが示された。この年代は、中国で観測された赤い低緯度オーロラの記録とも一致するものだ。これらのデータから、当時の太陽活動周期が現在の約11年より短い7~8年だったことや、今回見つかった太陽プロトン現象がその太陽活動周期がピークを迎えた年代に発生したものであることが明らかになった。

アスナロの試料と太陽周期
(上)青森県の下北半島で出土したアスナロの試料。(下)炭素14の記録に基づいて再構築された太陽周期と歴史的記録。(黒い矢印)西暦1200年の冬から1201年の春までの間に起こった太陽プロトン現象、(オレンジ色の円)オーロラ、(青と赤の星印)明月記などに記されていた数日にわたる低緯度オーロラ、(黒のひし形)大きな黒点の出現(提供:(上)東北大学、宮原ひろ子、(下)Miyahara et al.

「歴史文献と年輪年代学を組み合わせることで、太陽プロトン現象と、記録された黒点やオーロラとの直接的な比較が可能になりました。この手法は、検出が難しい現象を効率的にとらえる基盤となります」(宮原さん)。

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