すばる望遠鏡HSCで作成、最も深く広いダークマターの3次元分布図

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すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラHSCを用いた観測により、これまでで最も深く広い天域におけるダークマターの3次元分布図が作られ、宇宙の構造の形成度合いを示す物理量が精密に測定された。

【2018年9月27日 Kavli IPMU

遠方銀河からの光は地球に届くまでの間に、中間に位置する銀河や銀河団などの重力の影響を受けて、曲げられたり増幅されたりする。この「重力レンズ効果」によって遠方銀河の像は拡大されたり変形したりするが、その度合いを調べると、レンズ源となった物質の3次元分布を復元することができる。とくに、電磁波で直接観測ができないダークマターの分布を知ることができるという大きな利点がある。

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)の日影千秋さんたちの研究チームは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム(HSC))」を使って、満月約3000個分に相当する天域を観測し、約1000万個の銀河の形状を測定した。研究チームは銀河の形状から重力レンズ効果を詳しく調べ、これまでで最も深く(過去の宇宙までさかのぼった)、広い天域をカバーした、過去に例がないほど解像度の高いダークマターの3次元分布図を作成した。

ダークマターの3次元分布図
(左、青)ダークマターの分布図。明るい領域ほどダークマターがより多く存在する。年代別に測定することで異なる距離を調べることができ、3次元分布図が得られる。(白)重力レンズ効果による、銀河の平均的なゆがみの方向。(提供:HSC Project/東京大学)

ダークマターの3次元分布図(提供:Kavli IPMU)

この重力レンズ効果の観測結果から、宇宙の構造形成の進行度合いを表す物理量(以後S8と表記)を測定することができる。S8が大きい宇宙では、宇宙の構造がより進化し、より多くの銀河が存在する。遠くの暗い銀河まで観測し、高解像度のダークマター地図を作成したことで、研究チームは高精度でS8の値を測定することに成功し、重力レンズ効果を用いた他の同様のプロジェクトよりも遠い(過去の)宇宙のS8を得ることができている。

S8の測定結果
異なる年代の宇宙の観測から得られた宇宙の構造の進行の度合い(S8)の測定結果(提供:HSC Project/東京大学)

これまでに重力レンズの観測から測定されたS8は、天文衛星「プランク」の観測から予想される値よりわずかに小さい。この違いはデータ量が限られていることによる統計的な不定性によるものかもしれないが、一般相対性理論と宇宙定数に基づく宇宙の標準モデルの綻びを示唆している可能性もある。

宇宙構造のシミュレーション結果の比較
(左)今回のHSCなど重力レンズ観測が支持する宇宙模型に基づくシミュレーションの結果、(右)「プランク」の観測が支持する宇宙模型に基づくシミュレーションの結果。S8がわずかに大きいプランクの支持する宇宙では、HSCの宇宙に比べより構造が進化している(提供:東京大学、Kavli IPMU 西道啓博さん)

今回の成果は、ダークマターや、宇宙のエネルギーの大半を占めるとされるが正体不明の存在であるダークエネルギーの謎の解明に向けた、HSCによる精密宇宙論への最初の第一歩となるものだ。また、今回の結果は、現在行われている大規模観測の約10%のデータだけを用いたものである。今後得られるデータにより標準的な宇宙モデルへの理解がさらに深まれば、ダークエネルギーの正体を解明できる可能性も十分にある。「今回得られた結果は、私たちが2018年2月に公開した『標準模型の予想より暗黒物質のかたまりが少ない』という研究結果を支持し、天文学的にも大変興深いものです」(国立天文台先端技術センター HSC開発責任者 宮崎聡さん)。