ダークエネルギーサーベイで6年分のデータ解析完了

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6年間で6億個以上の銀河を観測した「ダークエネルギーサーベイ」の全観測データの解析結果が公開された。ダークエネルギーの密度が時間変化しない標準モデルを支持する結果が得られている。

【2026年1月29日 NSF国立光赤外天文学研究所

宇宙膨張は加速していることが観測から明らかになっている。加速膨張の原因として、宇宙に一種の「負の圧力」を生み出す「ダークエネルギー」が存在するという仮説が有力だ。宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の観測から、ダークエネルギーは宇宙の質量・エネルギー密度の約7割を占めていると推定されているが、その正体は全くわかっていない。

一方、一般相対性理論に基づく宇宙の基本方程式(アインシュタイン方程式)には、「宇宙定数Λ(ラムダ)」という係数を持つ項を付け加えても成り立つ自由度があり、Λがゼロでない場合には加速膨張する宇宙が解となる。現在では、Λがゼロでないという仮定と、「運動速度が光速よりずっと遅い(=冷たい)ダークマター(CDM)が宇宙の大規模構造を作った」という仮定を組み合わせた「ΛCDMモデル」が、観測事実を最もうまく説明できる標準理論とされている。

そこで、ゼロでないΛを生み出すもととして、時空の反発力を生み出すダークエネルギーの存在を考え、その正体を探る観測プロジェクトがいくつも行われている。

米エネルギー省フェルミ国立加速器研究所が主導し、7か国・35機関の研究者がかかわる国際協力プロジェクト「ダークエネルギーサーベイ」(DES)もその一つだ。DESではチリ・セロトロロ汎米天文台の口径4mビクトル・M・ブランコ望遠鏡に設置された「ダークエネルギーカメラ(DECam)」を使い、2013~2019年の6年間にわたって、約6億6900万個の銀河を観測した。

弾丸銀河団
DECamで撮影された銀河団「1E 0657-56」(りゅうこつ座、約37億光年)。2つの銀河団が衝突している天体で、「弾丸銀河団」という通称で知られる。背景の遠方銀河の像が歪む重力レンズ効果から、この銀河団のダークマターの分布が明らかとなり、2つの銀河団の高温ガス同士は合体しているが、ダークマター同士はすり抜けるように運動していることがわかっている(提供:CTIO/NOIRLab/DOE/NSF/AURA, Image Processing: T.A. Rector (University of Alaska Anchorage/NSF NOIRLab) & M. Zamani (NSF NOIRLab))

DESでは、遠くの銀河の像が手前の物質分布によってわずかにゆがむ「弱い重力レンズ効果」や、銀河同士が重力で集まって大規模構造を作り、ランダムな分布からずれていく「銀河クラスタリング」の度合いに注目して解析を行い、宇宙にダークマターがどのように分布しているか、大規模構造がどのように発達してきたかを調べて、そこからダークエネルギーの正体や性質に関する情報を導こうとしている。

今回、DESの6年分の観測データを全て使った解析結果が初めて公開された。解析には、遠くの銀河像同士が持つ歪みの相関、遠くの銀河像と手前の銀河分布の間の相関、銀河分布自身が持つ相関を組み合わせる「3×2pt」という手法が用いられた。さらに、バリオン音響振動やIa型超新星の観測データを組み合わせた解析も行われた。

DESのデータ解析
DESのデータ解析のイメージイラスト。黄色が遠方の銀河、赤色が比較的近い距離にある銀河を表す。下の3枚のパネルは解析に用いられた3種類の「2点相関関数」を表す。遠方の銀河像の歪み同士の相関(左)、大規模構造を作っている手前の銀河同士の位置の相関(中央)、手前の銀河と遠方の銀河像の間の相関(右)を精密に調べ、時代ごとの銀河やダークマターの分布、構造形成の進み具合などが求められた(提供:Jessie Muir, DES Collaboration)

解析の結果、物質のエネルギー密度や銀河分布の構造形成の進行度などのパラメーターについて、3年分のDESデータを解析した過去の結果よりも2倍以上精度を向上させることができた。得られた値は過去のDESの結果と一致している。

「DESで計画された4つ全ての指標を使い、全てのデータに基づく結果を目にすることができるのは信じられない気持ちです。これは私がDESでデータを取り始めたときには夢でしかなかったことで、ついにその夢がかないました」(国立光赤外天文学研究所 Yuanyuan Zhangさん)。

また、ダークエネルギーの正体に関連する解析も行われた。

ダークエネルギーの性質は、エネルギー密度と生み出す圧力の関係(状態方程式p = wρ)の係数wで特徴づけられる。w < -1/3であれば宇宙は加速膨張する。時間とともにエネルギー密度が変化しないダークエネルギーはw = -1となり、w ≠ -1なら時間とともに密度が変わる。

DESチームは、w = -1の標準的なΛCDMモデルと、w が -1以外の値を取る「wCDMモデル」のどちらがもっともらしいかを今回のデータセットから検討した。その結果、6年分の観測データから導いたwは-1.12 (+0.26/-0.20)となり、おおむねw = -1のΛCDMモデルと矛盾しないことがわかった。他の観測データと組み合わせた解析ではw = -0.981 (+0.021/-0.022)となり、wCDMモデルの方がΛCDMモデルよりも良いという有意差はなかった。

ただし、標準モデルと一致しないパラメーターもある。時代とともに物質が重力で集まって構造形成が進んでゆく度合いを表す「S8」と呼ばれる物理量だ。これまでに、CMBの観測と銀河サーベイプロジェクトの両方からS8が求められているが、CMBの観測結果からはS8が約0.83となるのに対して、銀河サーベイでは0.78~0.8程度の値が求まっており、「S8テンション」(S8をめぐる緊張関係)と呼ばれている。

今回の新たなデータ解析で、S8の値は 0.789±0.012 となり、CMBから導いたS8との不一致がやはり残った。ただし、不一致の確度は2.6σほどで、偶然である可能性が否定されるほどではない。

今後は、さらに別のダークエネルギーのモデルや、一般相対性理論を修正することで宇宙論の問題を解決しようとする「修正重力理論」などの検証にもDESのデータが使われるだろう。さらに、今回のDESのフルデータセットは、新たに始動した「ベラ・C・ルービン天文台」で10年にわたって行われる大規模サーベイ「LSST」の助けにもなる。LSSTは約200億個の銀河を南天全体でカタログ化する、高赤方偏移・広視野のサーベイだ。このデータをDESのようなデータと組み合わせることで、宇宙論パラメーターを高精度に測定し、ダークエネルギーや宇宙膨張の歴史をより良く理解できるようになる。

「DESは変革を起こしてきました。ベラ・C・ルービン天文台は私たちをさらにその先へと導くでしょう。ルービン天文台のかつてない南天サーベイによって、重力の新たなテストや、ダークエネルギーに新たな光を当てることが可能になります」(国立光赤外天文学研究所 NSFプログラムディレクター Chris Davisさん)。

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