「ひとみ」が見た、意外と静かな銀河団中心の高温ガス

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本格運用には至らなかったX線天文衛星「ひとみ」だが、観測装置立ち上げ段階で行われた観測から、ペルセウス銀河団の中心部の高温ガスは意外に静穏であることが明らかにされた。

【2016年7月7日 JAXANASAESA

私たちから約2.5億光年遠方にあるペルセウス座銀河団は、X線で最も明るい銀河団(銀河の大集団)だ。これまでに数々の観測が行われ多くのX線データが取得されており、いわば「標準天体」とも呼べる銀河団である。

ペルセウス座銀河団の中心には巨大なブラックホールを持つ電波銀河(NGC 1275)があり、そこから宇宙ジェット(光速に近い高エネルギー粒子の絞られた流れ)が放出されている。この宇宙ジェットが、周囲に広がる5000万度以上の高温ガスにどのような影響を及ぼしているか。これを明らかにすることはX線天文学の重要な研究テーマの一つであり、その解明のためにはガスの運動を調べることが必要となる。

X線天文衛星「ひとみ」プロジェクトのメンバー約250名の研究者からなる国際研究チームは、今年2月17日の「ひとみ」打ち上げの約1週間後から、軟X線分光検出器「SXS(Soft X-ray Spectrometer)」によって60時間以上にわたりペルセウス座銀河団を観測していた。得られたデータから、SXSは打ち上げ前に見積もっていた以上の分解能を達成していたことがわかり、これまでの20倍以上の精度で高温ガスの運動を測定できることを軌道上で実証した。

「すざく」と「ひとみ」のスペクトル比較
「すざく」の装置XIS(赤)と「ひとみ」の装置SXS(黒)の取得したスペクトル比較。「ひとみ」は非常に高精度でデータを取得できていた(出典:論文より)

また、SXSは銀河団中心部の高温ガスの運動を初めて測定することに成功し、ガスの乱れた運動が意外に小さいことを明らかにした。銀河団の中心から10万~20万光年の範囲では、高温ガスの乱れた運動の速さは秒速164±10km(視線方向の成分)と見積もられたが、この運動が発生する圧力は高温ガスの熱的な圧力の4%に過ぎない、予想を下回る低い値である。

銀河団中の高温ガスの運動速度を表した図
銀河団中の高温ガスの運動速度を表した図。背景はNASAの衛星「チャンドラ」の観測データによるペルセウス座銀河団で、右の四角い部分(一辺約20万光年)が「ひとみ」SXSの観測領域。青は私たちに近づく方向の運動、赤は遠ざかる方向の運動を表す(提供:NASA Goddard and NASA/CXC/SAO/E. Bulbul, et al.)

銀河団中心部で巨大ブラックホールから吹き出すジェットの影響でガスはかき混ぜられて乱れた状態なのではないかという予測もあったが、ガスは意外に静かだったということになる。

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