初めてとらえられた銀河団衝突の瞬間

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X線天文衛星「すざく」や電波望遠鏡などを用いた観測で、銀河団同士が衝突するときに発生する衝撃波が初めて観測された。銀河団の形成と進化の過程を理解するうえで重要な成果となる。

【2019年7月16日 理化学研究所宇宙科学研究所

宇宙では数百億~数千億個の星が集まって銀河が形成され、さらにその銀河が数百個以上も集まって銀河団が形成される。銀河団は宇宙の大規模構造の「節」の部分に対応していて、その直径は数億光年にも達しており、重力で束縛された天体としては宇宙で最大のものだ。

銀河団は宇宙の歴史の中で、互いに衝突と合体を繰り返すことで成長してきたと考えられている。銀河団同士の衝突が完了するまでには数十億年程度かかると推定されており、ある銀河団で衝突の全ての段階を観測することは不可能だ。そのため、銀河団の進化の歴史を調べるには、異なる衝突段階にある銀河団をスナップショットとして多数観測する必要がある。

これまでの観測で、衝突の最中にある銀河団では衝突軸に沿った方向に衝撃波が存在することが多く報告されている。また、シミュレーションの結果からは、エネルギーが放出され始める「衝突の瞬間」に、衝突軸に垂直な方向に衝撃波が形成されると予測されている。この衝撃波は遠方まで伝搬し、衝突による放出エネルギーは銀河団だけでなく周辺の大規模構造にまで伝わると考えられている。

銀河団衝突の模式図 銀河団衝突の模式図。色は銀河団プラズマの温度を表し、赤が高温、青が低温。衝突が進むと衝突軸に沿った衝撃波が形成される(青円弧)。また衝突の瞬間には、衝突軸に垂直な方向へと衝撃波(赤円弧)が走ると予測されてきた(提供:プレスリリースより、以下同)

しかし、この初期段階は1億年未満しか保持されないと理論的に考えられている。そのため、衝突したばかりの銀河団の発見例は非常に少なく、銀河団衝突の初期にどのような現象が起こるのか、どのくらいのエネルギーが解放されるのかといったことは不明であった。

理化学研究所の顧力意さんたちの研究グループは、X線天文衛星「すざく」「チャンドラ」「XMM-Newton」と、低周波電波望遠鏡「LOFAR」、巨大メートル波電波望遠鏡「GMRT」を用いて、みずがめ座の方向約12億光年彼方に位置する衝突初期段階の銀河団ペアを詳しく観測した。

銀河団ペア 銀河団ペア。SDSSによる可視光線画像に、チャンドラによるX線画像(青)、GMRTによる325MHz電波画像(赤)を重ねたもの

まずX線観測データから、2つの銀河団の中間に7000万度の高温プラズマが、約1Mpc(約326万光年)の広範囲にわたってベルト状に存在していることが明らかになった。さらに、その高温領域の端では高温プラズマの温度と密度が急激に下がることがわかった。これは高温プラズマ中に衝撃波が存在することを示しているが、その方向は衝突軸に垂直である。シミュレーションで予測されていた、衝突軸に垂直な方向の衝撃波の存在を世界で初めて確認したものとなる。

「高温ガスは銀河団よりさらに広い範囲に広がっていると予想されます。観測された衝撃波は銀河団の進化だけでなく、宇宙の大規模構造にも影響を及ぼしたと言えます」(顧さん)。

銀河団プラズマの温度と圧力 (左)XMM-Newtonによる銀河団プラズマの温度マップ。緑の等高線がX線、白の等高線が電波放射強度を示している。黒破線が衝撃波の位置。(右)圧力マップ。白破線が衝撃波の位置

電波観測のデータからは、銀河団の中間に400~600kpc(約130万~200万光年)にわたる電波放射が広がっていることがわかった。電波源は低周波でのみ明るいスペクトルを持つことから、既にエネルギーを失っていた電子が衝突現象で発生した衝撃波によって再加速され放射されたものと考えられる。衝突現象が銀河団規模の粒子加速にも影響を与えることを示唆する結果だ。

今回の研究成果は衝突と合体による銀河団の形成と進化、宇宙の大規模構造形成史の理解、さらに宇宙プラズマ物理学の進展に大きく貢献すると期待される。この衝突銀河団は、2021年度に打ち上げ予定の日本のXRISM衛星、2030年代打ち上げ予定の欧州のAthena衛星によって、より詳細な研究が行われる予定である。

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