「すざく」観測で判明、1000万光年スケールで均一な元素組成

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X線天文衛星「すざく」によるおとめ座銀河団の広域観測から、銀河団の内側から外縁部にわたって元素組成が一定であり、さらにその組成は太陽系周辺とほぼ同じであることが明らかになった。

【2015年10月22日 宇宙科学研究所

現在、宇宙に存在する炭素よりも重い元素はすべて、星の内部での核融合反応によって作られ、星が死を迎えるときに起こす超新星爆発で宇宙空間にばらまかれたものだ。宇宙の元素組成を測ることは、生命を育み維持するためにも必要な元素がどこでどのように作られたのかを解き明かすことにつながる。

超新星爆発には、大きく分けて2つのタイプがある。非常に重い星の死であるII型超新星爆発と、比較的軽い星の死であるIa型超新星だ。太陽の10倍以上の質量をもつ星はII型超新星爆発を起こし、酸素やマグネシウムといった軽い方の元素を多く生成する。一方、Ia型超新星爆発では、鉄やニッケルのように重い元素が多く生成される。

JAXAのAurora Simionescu(オーロラ・シミオネスク)さん率いる研究チームは、現在の宇宙の平均的な元素組成を明らかにするために銀河団の高温ガスの元素組成を調べた。宇宙に存在する「普通の」物質のほとんど(つまり、ほとんどの元素)は、非常に熱くX線で明るく輝くガス状態にあり、それは数百以上の銀河が集まった銀河団に付随している。つまり、宇宙の平均的な元素組成を知るためには、X線で銀河団のガスを観測すればよい。

研究チームはX線観測衛星「すざく」を用いた観測から、まずペルセウス座銀河団のガスの元素組成を測定し、広い領域にわたって銀河団ガスに含まれる鉄の量の測定に成功した。しかし、鉄の組成量だけでは、どのタイプの超新星爆発がどのくらい現在の宇宙の元素組成に寄与したのかはわからない。II型超新星から多く放出される比較的軽い元素の量とIa型超新星から多く放出される重い元素の量のように、複数の元素の量を測定して比較する必要がある。

研究チームはさらに、「すざく」でおとめ座銀河団を観測した。データ解析の結果、鉄だけでなくマグネシウムやケイ素、硫黄の量を、おとめ座銀河団の外縁まで測定することができた。

「すざく」が観測したおとめ座銀河団
「すざく」が観測したおとめ座銀河団。小さい四角それぞれが「すざく」の観測を表す(提供:NASA/JAXA)

「鉄とケイ素、硫黄の元素組成比は、太陽や天の川銀河内にあるほとんどの星の組成比とほぼ同じで、この傾向はおとめ座銀河団全体に当てはまることがわかりました」(スタンフォード大学 Norbert Wernerさん)。

ペルセウス座銀河団でもおとめ座銀河団でも、鉄の元素量は銀河団の内側から外側までほぼ一定だった。さらに、おとめ座銀河団では、マグネシウムやケイ素、硫黄も銀河団の外側までほぼ同じであることが明らかになった。これは、銀河団内で元素がよく混ざっていて一様であることを示している。つまり、太陽半径(約70万km)程度の小さなスケールから銀河団サイズ(数百万光年以上)の大きなスケールまで、ほぼ同じ元素組成だと言えることになる。

宇宙には元素組成が異なる領域もあるだろうが、今回の研究は、現在の宇宙のほとんどが太陽系周辺と似たような元素組成を持っていることを示す成果となった。

おとめ座銀河団の一部
おとめ座銀河団の一部。左下のM87が1枚目画像の中心。クリックで投稿ギャラリーのページへ(撮影:oyabunさん)

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