銀河団の衝突で解放される莫大なエネルギー

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衝突を始めたばかりの銀河団をX線と電波で観測した結果、巨大な衝撃波で莫大なエネルギーが解放され、そのエネルギーが粒子の加速や磁場の増幅に使われている様子がとらえられた。

【2023年6月21日 名古屋大学国立天文台

数千個の銀河が集まり、高温のガスで包まれた銀河団は、宇宙最大の天体と呼ばれることもある。銀河団は衝突を繰り返すことで成長すると考えられるが、銀河団同士の衝突も天体現象としては宇宙最大規模だ。衝突の際は、銀河団のガスに巨大な衝撃波が広がり、莫大なエネルギーを解放する。ただ、そのエネルギーの規模や余波については謎が多い。衝突が始まったばかりの段階にある銀河団は、衝突後時間が経った銀河団に比べて数が少なく、観測例が乏しいからだ。

その数少ない衝突開始直後の銀河団の一例が、ケンタウルス座の方向にある「CIZA J1358.9-4750」(以降CIZA1359)で、2つの銀河団の中心は約450万光年まで接近している。地球からの距離も約10億光年と比較的近いこの衝突銀河団に、X線と電波の眼が向けられた。

CIZA1359
CIZA1359(擬似カラー画像)。2つの銀河団を満たす高温ガスの分布(青で表現)が見える(提供:X-ray: ESA/XMM-Newton/Omiya et al.; Radio: NCRA/uGMRT/Kurahara et al.; Optical ESO/DSS)

名古屋大学の大宮悠希さんたちの研究チームは、ヨーロッパ宇宙機関のX線天文衛星「XMM-ニュートン」によるCIZA1359の観測データを解析し、2つの銀河団の間に約6000万度のガスが分布していることを明らかにした。それぞれの銀河団の中心部が約4000万度であることと比べても、極めて高温だ。

ガスを加熱しているのは、衝突面からそれぞれの銀河団の中へ広がり始めた衝撃波だ。衝撃波は両方向に毎秒約1500kmの速度で進んでいると見積もられ、逆算するとCIZA1359の衝突は約3億年に始まったことになる。これは衝突銀河団としては非常に若い。

私たちから見た衝撃波面は差し渡し約400万光年にもなる。視線方向の広がりは直接測定できないが、大宮さんたちはCIZA1359の衝突が始まったばかりで構造が単純であることを利用し、衝撃波の奥行きを約300万光年と見積もった。こうして得られた衝撃波面の面積に、広がる速度を掛け合わせると、衝撃波が消費する運動エネルギーが得られる。その大きさは片側で2.3×1038Wとなり、これは太陽が10億年かけて生み出すエネルギーがわずか1秒で解放される計算だ。

CIZA1359のX線強度と温度分布
(左)CIZA1359のX線強度(等高線はX線表面輝度)、(右)温度分布(破線が高温構造)(提供:名古屋大学リリース、以下同)

X線強度の増幅
銀河団の衝突によるX線強度の増幅。X線強度が1.8倍に増幅された領域が高温構造と一致していることがわかる

衝撃波で解放された運動エネルギーは、ガスの加熱・粒子の加速・磁場の増幅などに使われる。とくに、衝撃波で加速された電子が増幅された磁場の中を通過することで発生するシンクロトロン電波は、多くの衝突銀河団で観測されている。ただし、電波が検出された例のほとんどは衝突から時間が経過した銀河団であり、衝突早期の銀河団ではほとんど見つかっていない。

国立天文台の藏原昂平さんたちの研究チームがインドの巨大メートル波電波干渉計(uGMRT;Giant Metrewave Radio Telescope)を用いて、CIZA1359とその周辺をセンチメートル帯の低周波電波で観測したところ、およそ3.5×1033Wの明るさに相当するシンクロトロン電波がとらえられた。衝撃波で解放されたエネルギーの約0.001%が電波に変換されたことに相当する。

この結果は、衝突早期の段階で既に粒子加速が働いていることを示すものだ。ただし、粒子加速に関わっているのは衝撃波だけとは限らない。今回の電波観測からは、銀河団の中に活動銀河核らしき構造がいくつか見つかった。活動銀河核からは電子などの荷電粒子が放出されるため、今回検出された衝突早期の銀河団からの淡い電波放射との関連が示唆されている。

CIZA1359の電波強度分布
CIZA1359の電波強度分布。(黒線)「uGMRT」の観測による電波強度分布(電波放射を強調したもの)、(白)日本のX線天文衛星「すざく」の観測によるX線表面輝度分布、(赤)XMM-ニュートンの観測による高温領域(提供:藏原昂平)