中性子星の合体で放出された、ほぼ光速のジェット

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2017年8月に観測された重力波現象「GW170817」の追観測データから、重力波源となった中性子星の合体で光速の99.97%に達するジェットが生じていたことがわかった。

【2022年10月19日 NASA

2017年8月に米欧の重力波望遠鏡「LIGO」「Virgo」で検出された重力波「GW170817」は、中性子星同士の連星が合体して爆発する「キロノバ」という現象で発生したものだった。この現象では、重力波の検出直後から数週間にわたって、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)をはじめとする宇宙・地上の様々な望遠鏡が重力波源の位置に残された残光の追観測を行い、「マルチメッセンジャー天文学」の成功例となった。重力波の検出から2秒後には小規模なガンマ線バーストも観測されている。

米・カリフォルニア工科大学のKunal P. Mooleyさんたちの研究チームでは、HSTのデータに、電波望遠鏡によるVLBI観測のデータやヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星「ガイア」のデータを組み合わせて分析を行い、GW170817で発生したジェットが時間の経過とともにどう変化したのかを明らかにした。

分析の結果、天球上での爆発の発生位置がきわめて正確に特定された。また、強力な磁場で細く絞られたビーム状のジェットに沿って爆発の衝撃波が外へと移動し、ジェットの物質が周囲の星間物質と衝突した様子などが詳しく明らかになった。

とくに、HSTのデータの分析から、爆発で発生したジェットの見かけの速度が光速の7倍に達したことが示された。一方、爆発から数か月後に行われた電波観測では、ジェットの見かけの速度が光速の4倍に減速していたこともわかった。

宇宙ジェットの速度が光速を超えているように見える現象は「超光速運動」と呼ばれ、活動銀河核などで発生した光速に近いジェットが地球に向かって噴き出している場合によく見られる。光速を超えているのはあくまでも見かけだけで、実際のジェットの物質は光速以下で運動している。Mooleyさんたちはこの超光速運動の分析から、ジェットの根元での速さと噴き出す細さをこれまでにない精度で求めた。

「私たちの結果によると、ジェットは放出された時点で少なくとも光速の99.97%で動いていたことを示しています」(カリフォルニア大学バークレー校 Wenbin Luさん)。

連星中性子星合体によるジェット
連星中性子星の合体で発生するジェットのイメージイラスト。中性子星の合体では新星爆発の1000倍に達するエネルギーが解放される。合体後には、強力な磁場で細く絞られた、光速に近い速度のジェットが放出される(提供:Artwork: Elizabeth Wheatley (STScI))

中性子星連星合体のモデルでは、まず中性子星同士が合体して重力崩壊を起こし、ブラックホールができる。そのブラックホールの周りに残された物質の一部は、強力な重力で引き寄せられて降着円盤を形成する。やがて、円盤の回転軸に沿って光速に近い(=相対論的な速度の)ジェットが両極から放出される。

これまで、ショートガンマ線バーストの発生源は中性子星の合体ではないかと長年にわたって推測されてきたが、この両者の関連を示すためには、中性子星合体の現場で相対論的ジェットが生じている証拠が必要だった。今回の成果は、これまで考えられてきた中性子星合体のシナリオに沿うものであると同時に、中性子星合体とショートガンマ線バーストの間に関わりがあることを大きく裏付けるものだ。

今回の研究成果の紹介動画「Hubble Reveals Ultra-Relativistic Jet」(提供:NASA Goddard)

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