ジェットの周期的歳差運動が裏付けた、銀河中心ブラックホールの自転

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おとめ座の銀河M87の中心から噴き出すジェットを約20年にわたり観測したところ、その噴出方向が周期的に変化していることが明らかになった。銀河中心の超大質量ブラックホールの自転に起因するものとみられる。

【2023年10月2日 EHT-Japan

多くの銀河の中心には、太陽の数百万倍から100億倍もの質量をもつ超大質量ブラックホールが存在する。そのうち活動が活発なブラックホールは、その周りに落ち込んだガスの重力エネルギーが解放されてガスが明るく輝く「活動銀河核」として観測され、中心からビーム状のジェットが噴出している。

最も代表的な活動銀河核の一つであるおとめ座の銀河M87では、2017年に太陽65億個分の質量を持つ超大質量ブラックホールのシャドウが撮影された。さらに、ブラックホールを取り巻く降着円盤とジェットが同時に観測され、活動銀河核のエネルギー源がブラックホールと周囲の降着円盤であることが決定づけられた。また、これらがジェットの形成に関係していることが示唆された。

近年の理論研究から、強力なジェットの駆動にはブラックホールの自転エネルギーが必要であることが提唱されている。しかし、ブラックホールの自転の有無を観測で見極めることは容易ではない。

国立天文台水沢VLBI観測所の崔玉竹さんたちの研究チームは、M87のジェットの特殊な動きに注目し、その根元にあるブラックホールの自転を見極めるため、東アジアVLBIネットワーク(East Asian VLBI Network:EAVN)などを用いて約20年間で123回観測されたジェットのデータや電波画像を分析した。

その結果、ジェットの向きが変化する首振り運動を示唆する動きがみられた。さらに詳しく解析したところ、ジェットの噴出方向が約11年周期で変化していることが明らかになった。これほど噴出方向の周期がきれいにとらえられたのは、今回が初めてのことだ。

ジェットの噴出方向の変化
(上)M87のジェットの電波観測画像。矢印はジェットの噴出方向を表す。(下)2000年から2022年の間に測定されたジェットの噴出方向の時間変化。曲線は測定結果と最もよく一致する11年周期の歳差運動のモデルを表す(提供:Cui et al. (2023))

天文学専用スーパーコンピューター「アテルイII」で理論シミュレーションを行ったところ、この11年周期は一般相対性理論が予言する「レンズ・シリング歳差」で説明できることが示された。自転する天体の周囲では、一般相対性理論的な効果により、時空そのものが自転に引きずられて回転する。この効果によって「レンズ・シリング歳差」が引き起こされ、降着円盤が観測と同程度の周期で回ることがシミュレーションで明らかになり、降着円盤の動きにつられてジェットも同じように歳差運動することがわかった。

これまで、ブラックホールの自転は理論や研究から示唆されるにとどまっていた。今回の研究ではジェットの首振り運動の2周期分という長期にわたるデータを用いることで、一般相対性理論が予言するブラックホールの自転の強力な証拠が得られた。さらに、ジェットの形成に自転が深く関与しているという理論を強く支持する成果も得られた。

自転する超大質量ブラックホールの周囲の想像図
自転する超大質量ブラックホールの周りで歳差運動する円盤とジェットの想像図。ブラックホールの自転軸は図の上下方向で固定している。ブラックホールの自転軸に対して円盤の回転軸が傾いていると、一般相対性理論の効果によってジェットの歳差運動が生じる(提供:Cui et al. (2023), Intouchable Lab@Openverse and Zhejiang Lab)

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