M84銀河中心から噴き出すジェットは早い段階で細さを失う

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M84銀河の中心にある大質量ブラックホールから噴き出すジェットが、ブラックホール近傍から円錐状に広がっていることが明らかになった。他の銀河のジェットに比べて、はるかに近い領域で細い形状を失っている。

【2025年10月21日 国立天文台水沢

活動的なブラックホールでは、引き寄せられたガスの一部が超高速で放出されるジェットが普遍的に見られる。ジェットはブラックホールの周囲に広がる降着円盤と垂直な方向に伸びていて、長い距離にわたって細く保たれている。このような状態を「コリメーション(Collimation)」と呼ぶ。

東京大学/水沢VLBI観測所のElika P. Fariyantoさんたちの研究チームは、アメリカ国立電波天文台が運営する電波望遠鏡ネットワーク「Very Long Baseline Array(VLBA)」を用いて、おとめ座の方向約6000万光年の距離にある楕円銀河M84を観測した。すると、銀河中心のブラックホールから噴き出すジェットが、噴出直後には放物型の絞られた形状を示すものの、予想よりも早い段階で円錐状へと広がっていき、他の銀河に比べてはるかにブラックホールに近い領域で細い形状を失っていることが明らかになった。

M84周辺
M84周辺。右端がM84、中央やや上はM86(撮影:chi_muroさん

「M84のジェットは、他の銀河に比べてブラックホールに約100倍近い場所でコリメーションを失うことがわかりました。M84はジェットの形状が詳細に測定された天体の中では、最も活動性が弱い銀河中心核を持ちます。今回の観測結果は、中心ブラックホールの活動性とジェットの形状に密接な関係があることを示しています」(Fariyantoさん)。

多くの活動銀河では、ジェットはブラックホールの重力が周囲のガスを支配する領域(ボンディ半径)に達するまで細く絞られた放物形状を維持する。一方、M84ではこの遷移がボンディ半径よりもずっと内側で起こっていて、ブラックホール周囲に流入する物質が少ないためにジェットを細く閉じ込めるための十分な外圧が得られず、より早い段階で広がってしまうと考えられる。他の銀河との比較からは、ブラックホールに流れ込む物質が多いほどジェットのコリメーションが効果的になる兆候も示されている。「今後さらに多くの天体を観測・比較して、この傾向が普遍的であるかどうか検証していきたいです」(名古屋市立大学 秦和弘さん)。

M84ジェットの電波画像など
(左)M84銀河のジェットの電波画像、(背景)銀河中心のブラックホールと降着円盤、ジェットの想像図(提供:(左)Laing & Bridle 1987, Fariyanto et al. 2025、(右)NASA/JPL-Caltech

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