「はやぶさ2」第3回最終軌道修正へ、カプセル開封も準備完了
【2020年11月24日 JAXA はやぶさ2プロジェクト】
11月23日現在、「はやぶさ2」は地球から約480万km(月までの距離の約12倍)の距離にまで迫っている。これまで、10月22日と11月12日にスラスター噴射による最終的な軌道修正が行われた。これにより、現在の「はやぶさ2」は地球最接近時に地球上空290kmの地点を通過するような軌道を飛行している。
11月26日にはこの軌道をさらにシフトさせて、地球に衝突するコースに「はやぶさ2」を乗せる第3回目の最終軌道修正「TCM-3」が行われる予定だ。その後は12月1日ごろに最後の軌道修正「TCM-4」が行われ、12月5日のカプセル分離を迎える。
12月5日14~15時(日本時間)ごろ、「はやぶさ2」は地球から約22万kmの地点で小惑星リュウグウのサンプルを納めた再突入カプセルを分離する。その後、15~17時に地球衝突コースから離脱するための軌道修正「TCM-5」を行い、地球圏から全速力で離脱する。一方、分離されたカプセルは秒速約12kmという猛スピードで地球の大気圏に再突入し、12月6日2~3時にオーストラリアの「ウーメラ管理区域」内に着地する見込みだ。
カプセル再突入までの軌道修正。11月26日の「TCM-3」で「はやぶさ2」は地球衝突コースに乗る。12月5日にカプセルを分離した後の「TCM-5」で探査機本体は地球から離脱する。画像クリックで表示拡大(提供:JAXA、以下同)
JAXAのカプセル回収班は先発隊が11月1日に、本隊が11月9日にオーストラリアに入国した。先発隊はすでに、ウーメラ管理区域の南にあるウーメラ村に移動していて、ここに回収作業の拠点が置かれることになっている。本隊は南オーストラリア州のアデレードで2週間の隔離期間を過ごした後、ウーメラに向かう予定だ。
カプセル回収班は、12月6日未明に再突入するカプセルの火球を光学観測するほか、パラシュート展開後に発信される電波信号(ビーコン)を頼りに落下地点の方角を求め、最終的にはヘリコプターやドローンを使ってカプセルを発見する。
カプセルはパラシュート展開用の火薬などの安全化処理が行われた後、ヘリコプターでウーメラ村まで輸送される。続いて、初期観察施設(Quick Look Facility; QLF)内で外側が分解され、リュウグウの試料が入っている「サンプルコンテナ」が取り出される。「はやぶさ2」では新たに、サンプルコンテナに気体も保持し、取り出せる仕組みになっているため、QLFではまず、試料から出た気体を取り出して簡易分析が行われる。
その後、サンプルコンテナは12月上旬のうちに輸送ボックスに収納されて日本へ空輸され、神奈川県相模原市のJAXA宇宙科学研究所内にある「キュレーション施設」へと運ばれる。キュレーション施設には、試料を空気にさらすことなく取り出すための「クリーンチャンバー」と呼ばれる装置が準備されており、これにサンプルコンテナを接続していよいよ開封となる。コンテナが開封され、中にどの程度の試料が入っているかがわかるのは12月下旬の見込みで、すでに開封のリハーサルも行われている。
JAXA宇宙科学研究所のキュレーション施設で、サンプルコンテナをクリーンチャンバーに接続するリハーサルの様子。クリーンチャンバー内は真空環境で、この中でコンテナが開封され、試料が取り出される
リュウグウの試料はクリーンチャンバー内の真空の環境の下で一部が取り出された後、窒素を満たした環境に切り替えて試料全体が取り出される。取り出された試料は重量測定や観察が行われた後、岩石片や粒子を一つ一つピックアップして記録に残される。この作業を「キュレーション」と呼んでいる。
試料の全重量のうち5%はJAXAに、15%が「はやぶさ2」プロジェクトの初期分析チームに分配される。リュウグウのサンプルをいち早く分析して論文を発表するのが初期分析チームの使命だ。さらに、初期分析後の第2段階の研究向けとして、国内に10%、海外に5%、探査機の運用や「オシリス・レックス」との連携などで「はやぶさ2」プロジェクトに協力したNASAへ10%が、それぞれ分配される。最後に、国際公募研究向けに15%が分配され、残る40%は将来のために保管される。
「はやぶさ2」が持ち帰るリュウグウの試料の分配方針
【録画】小惑星探査機「はやぶさ2」の記者説明会(20/11/16)
〈参照〉
- JAXAはやぶさ2プロジェクト:小惑星探査機「はやぶさ2」記者説明会 2020年11月16日
〈関連リンク〉
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