板垣さん発見の新星でわかった、宇宙のリチウム合成工場

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国立天文台などの研究チームが、アマチュア天文家の板垣公一さんが2013年8月に発見した新星をすばる望遠鏡で観測し、リチウムがこの新星で大量に生成されていることを突き止めた。リチウムを生成・放出している天体が直接的に観測されたのはこれが初めてのことだ。

【2015年2月19日 国立天文台

100種類以上の元素の中で3番目に軽いリチウムは、様々な天体や現象で生成されると考えられている。その1つがビッグバン時の元素合成だ。また、宇宙線が星間物質と反応して、炭素や酸素などが壊れて作られることもわかっている。さらに、太陽程度の質量の小さな星の中や、超新星爆発の際に作られるとも考えられてきた。最近の研究では、新星爆発が重要なリチウムの起源であると推定されるようになってきている。

新星爆発の想像図
新星爆発の想像図。中心の白色矮星の表面に伴星からのガスが流れ込み、表面に降り積もったガスの層での核融合反応が暴走するとガスの層が爆発して吹き飛ぶ(提供:国立天文台)

国立天文台の田実晃人さんほか大阪教育大学、名古屋大学、京都産業大学などの研究チームは、2013年8月にいるか座に出現した新星「いるか座V339(V339 Del)」をすばる望遠鏡の高分散分光器 (HDS) で観測し、新星爆発によって放出された物質 (ガス) の成分を精密に調査した。この新星は山形県の板垣公一さんが発見した天体で、4等台まで明るくなり多くの天文ファンを楽しませた。

放出された物質の成分を爆発38日後から4回にわたって詳しく調査したところ、ひときわ強い吸収線がスペクトル中の紫外線領域(波長313nm付近)に見つかった。水素やカルシウムなどの吸収線との比較から、これはベリリウム(7Be)の吸収線で、7Beが秒速1000kmの爆風に吹き飛ばされている状態にあることがわかった。

観測された7Beは、伴星から流入してきたガス中のヘリウム同位体3Heと、白色矮星表面に豊富にある4Heが高温状態で反応することで生成されたと考えられている。さらに7Beは53日の半減期で7Liに変わることが知られている。つまり爆発後50日以内の7Beの発見は、リチウムの「もと」になる7Beが新星爆発で生成される現場をとらえたものといえるわけだ。

見つかった7Beは高速で周囲に吹き飛ばされている状態なので、ここから作られるリチウムは高温環境で壊れることもなく星間空間に飛散し、次の世代の星を作る材料となる。吸収線の強さから星間空間に放出されるリチウムの量を計算したところ、従来の新星爆発理論による予測値の6倍以上にも及ぶことがわかった。

重元素が増えてきた現在の天の川銀河でもリチウムの量が急速に増大しているなど、宇宙 (天の川銀河) のリチウムには寿命の長い低質量星起源の成分があることは以前から推測されてきた。新星爆発はそのような低質量星が進化してできる天体であるため、有力候補の1つとして挙げられていたが、今までその証拠がなかった。今回の観測によって強固な裏付けが得られ、ビックバンから現在に至る物質進化モデルが大枠で正しいことが示されることとなった。