爆発が近いと予想される再帰新星、かんむり座Tの近況
【2024年5月28日 高橋進さん】
再帰新星かんむり座T(T CrB)の新星爆発について、昨年6月30日発行の国際天文学連合電子速報(ATel #16107)で、2024年2月から9月の間に発生するとの予報が出されました。この5月末でちょうどこの期間の半分が過ぎることもあり、現在の状況について報告します。なお、今回ご紹介する光度曲線などは日本変光星観測者連盟(VSOLJ)に報告のあった27人の皆さんによる熱心な観測によるもので、観測者の皆さんに心からお礼申し上げます。
かんむり座Tの前回の爆発は1946年2月でした。さらにその前が1866年5月だったことから、この天体は周期80年の再帰新星と考えられてきました。かんむり座Tは2015年ごろに、それまでの10.2等からおよそ9.8等に明るくなりましたが、この現象は前回(1946年)の爆発前の1938年にも見られた現象であり、これをもとにして次の(今回の)爆発は2024年3月~2026年10月との第一報が出されました。
さらに2023年2月ごろから、かんむり座Tの光度曲線が全体的に暗くなってきていることが指摘されました。この現象も1945年1月に見られた現象で、その400日後に新星爆発が起こったことから、今回の新星爆発の予報は2024年2~9月に改訂されました。また、この減光についてはV等級よりもB等級のほうが顕著に見られていて、これも1945年の時と同様の現象です。V等級よりB等級のほうが暗くなったということは色が赤い方向に変化したことを示しており、かんむり座Tの近接連星系を取り囲む塵の影響が大きくなったものと考えられています。
その後、かんむり座Tはこの4月ごろから少し復光してきています。V等級とB等級の差はあまり変わらないことから、塵の影響は変わらずありながらも、連星系全体が明るくなってきているようです。
さて、かんむり座Tの連星系の公転周期は227日ですが、光度曲線はその半分の周期で変光しています。これは、赤色巨星または近接連星系全体の形状が細長くなっていることにより、見え方が変わるためだと考えられています。こうした変光を起こす天体は回転楕円体変光星と呼ばれています。
通常は回転楕円体変光星の変光幅は0.1等以下程度ですが、かんむり座Tではおよそ0.6等の変光が見られるため、回転楕円効果以外の原因もあるようです。今年1月以降の光度曲線を見ると、全体的に復光してきているのと共に、114日周期の変光の振幅がかなり大きくなってきているようです。この原因についてはよくわかりませんが、近接連星系全体の見え方が変わってきている、降着円盤が明るくなってきているなど、様々な説が出されています。
このほか、何時間にもわたってかんむり座Tを連続観測し、短時間変動から新星爆発の予兆をとらえようという試みも進められています。
かんむり座は北天の星座であり、爆発予想期間の9月ごろまでは条件良く見ることができます。一方で、爆発後に明るく輝く極大期の様子は、ほんの数日くらいしか見られないとも予想されています。引き続き気を緩めることなく、78年ぶりの再帰新星の爆発を待ち構えていきましょう。
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