塵のハンバーガーで育つ赤ちゃん星

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生まれたての星を取り囲む、ハンバーガーのように見える大量の塵の円盤が真横から撮影された。非常に若い段階の星に塵の円盤ができていることが確認され、円盤の厚み方向の構造が初めて明らかになった。

【2017年4月24日 アルマ望遠鏡

台湾中央研究院天文及天文物理研究所のChin-Fei Leeさんたちの研究チームはアルマ望遠鏡を使って、オリオン座の方向約1300光年の距離に位置する原始星「HH 212」を観測した。HH 212の年齢はわずか4万歳と考えられており、誕生から46億年が経過した太陽と比べるとほんの10万分の1の年齢しかない赤ちゃん星だ。

HH 212
(a)アルマ望遠鏡とヨーロッパ南天天文台のVLTで観測されたHH 212のジェット。異なる分子が放つ電波で観測したジェットをそれぞれ異なる色で表現(青:水素、緑:一酸化ケイ素、赤:一酸化炭素)。中心星近くのオレンジ色が、アルマ望遠鏡を使った過去の観測で得られた塵の集合体。(b)今回のアルマ望遠鏡による観測で得られた、塵の円盤のクローズアップ画像。*は原始星の位置を表す。右下は太陽系の海王星軌道の大きさを表示。(c)観測結果と一致するように作られた、円盤のシミュレーションモデル。色は温度に対応(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/Lee et al.)

HH 212からは強力なガスの流れ(ジェット)が放出されており、ガスがさかんに星に降り積もっている証拠と考えられている。これまでの観測で、原始星の周りに平らな構造がありそうだということがわかっていて、円盤の存在を示すものではないかと解釈されていた。今回の観測ではその円盤を発見しただけでなく、構造までも明らかすることができた。これは、1300光年先の8天文単位(100km先の1cm)を見分けられるという高解像度を達成したことによるものだ。

「生まれたばかりの星の周りにある塵の円盤をこんなにはっきり撮影できるとは驚きです。円盤の構造を明らかにしたり、円盤形成の仕組みを理解したり、星への物質供給がどのように起こっているのかを理解するため、天文学者は長い間、生まれたばかりの星の周りの円盤を探してきました。アルマ望遠鏡の高い解像度を活かして、そうした円盤を見つけられただけでなく、その構造をとても詳細に描き出すことができたのです」(Leeさん)。

発見された塵の円盤は、地球からはほぼ真横から見る位置関係にあり、円盤の半径は約60天文単位(90億km)と見積もられた。面白いことに、観測結果の画像では円盤の中心面(赤道面)に暗い筋が見られ、その両側を明るい部分が挟むような形状がとらえられている。

これは、円盤の赤道面に塵が大量に存在し、しかも温度が比較的低いことを示している。こうした「ハンバーガー型」の構造はハッブル宇宙望遠鏡などの可視光線・赤外線の観測でとらえられたことはあったが、サブミリ波観測では初めてのことだ。この形から、理論的な予測どおり、円盤の外側はめくれ上がるように膨らんでいることがわかる。

一方で予想外のこともある。「理論的には、星が生まれてすぐの段階で周囲に円盤を作ることは困難と考えられてきました。磁場の力によって回転が妨げられ、円盤になりにくいと考えられているからです。しかし今回の観測成果を見ると、磁場が円盤形成を妨げるという効果は、実際には私たちが想像していたほど重要ではないのかもしれません」(米・バージニア大学 Zhi-Yun Liさん)。

今回の観測は、高い解像度を誇るアルマ望遠鏡によって、生まれたばかりの星の周りの小さな塵円盤を詳しく描き出せるということを示す好例だ。円盤形成理論の発展に大きく貢献するだけでなく、惑星形成の最初の一歩となる塵の成長を理解するうえでも重要な役割を果たすことも期待される。