ベンヌ試料から6種類の糖を検出

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小惑星ベンヌの試料から、リボースやグルコースといった6種の糖が検出された。宇宙には生命を支える分子が、これまで考えられていた以上に存在することを示唆する成果である。

【2025年12月8日 東北大学

2023年9月、NASAの探査機「オシリス・レックス」が小惑星ベンヌ(Bennu、ベヌー)から121.6gの岩石や砂を地球に持ち帰ってきた。この試料は世界各地の研究チームに分配され、分析が進められている。

ベンヌ
オシリス・レックスが撮影したベンヌ(提供:NASA/Goddard/University of Arizona

日本の研究者も参加している有機化合物分析チーム(SOAWG; Sample Organic Analysis Working Group)ではこれまでに、多種類のアミノ酸や核酸塩基など多くの生体関連分子を検出している。また、日本の探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウから持ち帰った試料の分析からも、同様の結果が得られている(参照:「リュウグウ試料から生命の材料分子を80種以上発見」「リュウグウ試料から2万種の有機分子、固体有機物を検出」)。

一方で、生命システムを支える主要な生体高分子である核酸とタンパク質の材料となる分子群のうち糖だけが、これまで小惑星の試料からは見つかっていなかった。

東北大学の古川善博さんたちの研究チームは、分配されたベンヌの試料から可溶性有機物を抽出し、その中から糖類を精製し、化学処理を行って分析を実施した。

ンヌの試料
ベンヌの試料(提供:NASA/Erika Blumenfeld and Joseph Aebersold

その結果、リボースやグルコース、ガラクトースといった6種類の糖が検出された。リボースは核酸のうちRNAを構成する糖であり、今回の成果により、これまで小惑星の試料から見つかっていなかった最後の核酸構成分子群が発見されたことになる。小惑星にRNAを構成する全ての分子が存在することを示すもので、生命に必要な構成要素の全てを備えた物質が、生命誕生前の地球や他の内惑星へ拡散していった可能性を示唆する結果だ。

ベンヌ試料から検出された糖
ベンヌ試料から検出された糖(提供:東北大学リリース)

また、DNAを構成するデオキシリボースは検出されなかったが、これは、40億年前の生命誕生期にあった地球で、RNAが遺伝の働きや生命中の化学反応を触媒する酵素の役割を担っていたとする「RNAワールド仮説」を支持する結果である。「生命は、主にDNA、RNA、タンパク質という3種類の特定の機能を持つ機能性生体高分子によって組織化された複雑なシステムに支えられています。初期の生命はもっと単純だった可能性があり、RNAは情報を保存したり、多くの生物学的な反応を触媒したりするので、生命誕生期に存在した初の機能性生体高分子の有力な候補です」(古川さん)。

グルコースとガラクトースについては、今回初めて宇宙に存在することが明らかになった糖であり、とくにグルコースは地球上の生命が利用する最も一般的なエネルギー源の一つとして知られる。グルコースの検出は、これまで考えられていた以上に、初期の太陽系に生命活動を支える重要なエネルギー源が存在していたことを示唆するものだ。

今回の研究成果は、生命に関連する糖が宇宙に存在することを決定的にするものだ。しかし、これまでに存在が明らかになったのは、ベンヌと2つの隕石に限られている。他の小惑星や彗星といった小天体でも見つかれば、宇宙における糖の普遍性と多様性が明らかになり、原始地球に降り注いだ糖の種類や量の理解にも繋がるだろう。SOAWGではベンヌ試料に含まれる様々な有機分子の分析を進めていて、今後の研究やリュウグウ試料、隕石試料との比較から、初期の太陽系で起こった分子の進化や、地球にもたらされた生命関連分子の多様性と起源がいっそう明らかになると期待される。

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