リュウグウとベンヌの明るい岩塊は起源の違いを物語る
【2020年9月29日 東京大学】
小惑星リュウグウを直接訪れた探査機「はやぶさ2」の観測を通じて、リュウグウはより大きな母天体が別天体との衝突で破壊された際に生じた破片から誕生したのだと推測されている。NASAの探査機「オシリス・レックス」が訪れている小惑星ベンヌも、破壊された母天体の破片から作られたと考えられており、リュウグウとベンヌの母天体が同一である可能性を示唆する研究もある(参照:「リュウグウとベンヌは最初からコマの形だった」)。
リュウグウを構成する岩塊は全体的に暗い色をしているが、中には非常に明るい色をしているものもある。東京大学大学院理学系研究科の巽瑛理さんたちの研究グループは、「はやぶさ2」の光学航法カメラ(ONC)と近赤外分光計(NIRS3)を使ってこれらの岩塊を分析した。明るい岩石の多くはリュウグウ自体に似た反射スペクトルを示すことから、母天体内部の異なる場所に起源を持つと考えられる。その一方、衝突前の母天体とは別の天体に由来する可能性の高い岩塊も6つ見つかっている。
低高度撮像で見えたリュウグウの明るい岩塊(矢印)。特に「はやぶさ2」のタッチダウン運用で得られた高解像度の画像(a)(b)(c)では、その他に明るい点がふりかけ状に存在することがわかる(提供:2020 Tatsumi et al.)
リュウグウは炭素質が主体で色が暗い「C型小惑星」に分類されるが、6つの岩塊は珪素質で比較的明るい「S型小惑星」の特徴を示した。このことから、リュウグウの母天体がS型小惑星と衝突したことでもたらされた可能性が高いという。一方、ベンヌでも明るい岩塊が見つかっているが、こちらは珪素質ながらもスペクトルが大型小惑星ベスタとよく似た「V型小惑星」に近いことがわかっている。従って、リュウグウとベンヌは同じ「がれきの寄せ集め」ではあるが、両者を生んだ衝突は別かもしれない。
今年12月に「はやぶさ2」が地球に帰還し、リュウグウのサンプルが地球へと届く。その中には明るい岩塊のかけらが混ざっている可能性があり、リュウグウの母天体の熱進化や衝突天体について、より詳細な情報を得られることが期待されている。
「日米は、それぞれ最先端の探査機を飛ばして炭素に富む小惑星(リュウグウとベンヌ)を同時並行的に探査しています。この2つの小惑星は大きさ、形、反射率(おそらく炭素量を反映)とも酷似していますが、含水鉱物の量だけは大きく異なることがわかってきました。なぜ水の量のみが大きく異なるのか、世界の科学者が悩んでいます。この謎への大きなヒントが、今回の同時論文発表で明らかにされた母天体の違いです(参照:「小惑星ベンヌの表面にベスタのかけら」)。リュウグウとベンヌは異なる母天体からやってきた可能性が高いことが、衝突天体の破片のスペクトル型の違いからわかったのです。このような発見が同時になされるのも同時並行探査の醍醐味です。両小惑星のサンプル分析により、両小惑星の母天体の具体的な進化の描像も明らかになるでしょう」(東京大学 杉田精司さん)。
〈参照〉
- 東京大学:小惑星リュウグウ上に見つかった衝突天体の破片 - 小惑星リュウグウとベヌーは異なる母天体に由来する可能性
- Nature Astronomy:Collisional history of Ryugu's parent body from bright surface boulders 論文
〈関連リンク〉
- 小惑星探査機「はやぶさ」プロジェクトページ
- 「はやぶさ2」:
- JAXA はやぶさ2プロジェクト
- はやぶさ2
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- 小惑星探査機「はやぶさ2」(JAXA宇宙科学研究所)
- 星ナビ.com 「はやぶさ2」ミッションレポート
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