赤色矮星2個と褐色矮星2個からなる四重連星系を発見

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位置天文衛星「ガイア」の観測データから、2個の赤色矮星と2個の褐色矮星からなる四重連星系が発見された。褐色矮星の基準星として今後の研究に役立つと期待される。

【2025年8月26日 南京大学

中国・南京大学のZenghua Zhang(張曾華)さんを中心とする研究チームは、ヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星「ガイア」とNASAの赤外線天文衛星「WISE」の観測データから、ポンプ座の方向約82光年の距離にある四重連星系「UPM J1040-3551 AabBab」を発見した。この符号は、「UPM J1040-3551 Aa」+「同Ab」という連星と、「同Ba」+「同Bb」という連星とが互いに回り合っていることを示している。

UPM J1040-3551 AabBab
四重連星系「UPM J1040-3551 AabBab」の想像図。画面左のオレンジ色の連星がM型赤色矮星の連星系UPM J1040-3551 Aaと同Abで、左上は拡大した想像図。画面右の赤い連星が褐色矮星の連星系UPM J1040-3551 Baと同Bbの姿。どちらも数十年周期で公転しながら、互いの周りを10万年以上の周期で公転しあっている(提供:Jiaxin Zhong, Zenghua Zhang)

「この発見が特に面白いのは、系が階層的な性質を持っている点です。これは星の軌道が長期間安定でいるために必要なことです。2つの連星はどちらも数十年周期で公転していて、しかも連星どうしが共通重心の周りを10万年以上の周期で公転しています」(Zhangさん)。

2つの連星どうしは1656au(0.026光年)も離れている。明るい方の連星系であるUPM J1040-3551 Aabはほぼ同じ質量の2個の赤色矮星からなり、2つを合わせた見かけの等級は14.6等だ。暗い方の連星系 UPM J1040-3551 Babはさらに低温の褐色矮星からなり、ほぼ近赤外線でしか見えない。

Zhangさんたちはもともと、褐色矮星と通常の恒星からなる連星で、特に2つの星の間隔が広いものを探索していた。そこでピックアップされた連星の一つがUPM J1040-3551 ABだったが、「ガイア」の観測データでこの連星系のA星にふらつきが見られることや、A星が同じ温度・同じ距離の単独星と比べて約0.7等も明るいことから、実はA星がAa星とAb星からなる近接連星であることが確認された。褐色矮星のB星の方も、典型的な褐色矮星に比べて異常に明るいことや、スペクトルの詳細な解析から、単独星ではなくBa星とBb星からなる近接連星であることが示唆されている。

Zhangさんたちの解析から、AaとAbはともに約3200KのM型赤色矮星であることが判明した。質量は太陽の0.17倍だ。一方、BaとBbの方はT型の褐色矮星で、温度はそれぞれ820K, 690Kと推定されている。半径は木星とほぼ同じだが、質量は木星の10~30倍ある。

「この天体は、2個のT型褐色矮星が2個の恒星の周りを公転する四重連星系として初めて見つかったものです。このような不思議な天体を研究できる、他にない宇宙の実験室となるでしょう」(スペイン・アストロバイオロジーセンター MariCruz Gálvez-Ortizさん)。

褐色矮星は恒星と惑星の中間の質量を持っていて、惑星と考えるには重すぎるが、恒星のように水素の核融合を維持できるほど重くはないという天体だ。そのため、恒星とは違って時間とともに冷え続け、温度・光度・スペクトルなどの性質が年齢とともにどんどん変わっていく。

そのため、褐色矮星には「年齢‐質量縮退問題」というやっかいな問題がついて回る。ある温度を持つ単独の褐色矮星があるとき、若くて軽い褐色矮星なのか、古くて重い褐色矮星なのかを観測から判別できないのだ。

だが、褐色矮星が普通の恒星との連星になっていれば、連星の軌道運動から質量を求めることができ、その質量と明るさの情報、相手の恒星の性質などから年齢も決めることができる。一般に連星の2個の星は同じ分子雲から同時期に誕生すると考えられるので、年齢だけでなく重元素量もほぼ同じとみなせる。こうした都合のよい性質があるため、褐色矮星と普通の星の連星は、褐色矮星を研究する上での「基準」として重要なのだ。

「独立に年齢が決まる離れた伴星を持った褐色矮星は、年齢の基準として、この縮退問題をうち破るのに非常に役立ちます。UPM J1040−3551は特に価値がある天体です。より明るいA星系が放射するHα線から、この連星系が3億年から20億年という比較的若い年齢であることを示しているからです」(英・ハートフォードシャー大学 Hugh Jonesさん)。

研究チームは、褐色矮星の連星系(UPM J1040−3551 Bab)が将来、高解像度の撮像技術によって2個の星に分離して撮影されることを期待している。もし分離撮像ができれば、軌道運動や力学的質量を精密に測定できるだろう。

「この四重連星系は褐色矮星のサイエンスに二重の利益をもたらします。褐色矮星の低温大気モデルを較正するための年齢の基準として、また、連星の2個の星を分離して軌道を追跡できれば、褐色矮星の進化モデルをテストするための質量の基準としても使えます」(米・カリフォルニア大学サンディエゴ校 Adam Burgasserさん)。