小型ソーラー電力セイル実証機「イカロス」運用終了
【2025年5月19日 JAXA宇宙科学研究所】
小型衛星「イカロス」は、太陽光の力をセイル(帆)に受けて進む「ソーラーセイル」と、セイルに貼られた薄膜の太陽電池で太陽光発電を行う「ソーラー電力セイル」を実証することを目的として、2010年5月に金星探査機「あかつき」と一緒に打ち上げられた。
打ち上げ後、イカロスは一辺14mの正方形のセイルの展開と展張に成功し、その全景が直径6cm×6cm程の超小型分離カメラにより撮影された。続いて、薄膜太陽電池による発電や太陽光圧による史上最大の推力を実現した。さらに、セイルの操作による軌道制御を行って、太陽光圧による加速下で精密な軌道決定にも成功した。こうして「イカロス」は打ち上げから約半年間で、世界初のソーラーセイルとソーラー電力セイル実証に成功した。世界初の惑星間ソーラーセイル宇宙機であることと、「イカロス」本体を撮影した2機の超小型カメラが最小の惑星間子衛星であることはギネス世界記録に認定されている。
(上)2010年6月14日に超小型分離カメラがとらえたセイルの展開・展張後の「イカロス」(提供:JAXA)。(下)「イカロス」のミッションシーケンス(提供:JAXA)
また、「イカロス」は宇宙最大の爆発現象であるガンマ線バーストを観測し、ガンマ線バーストの偏光の観測から偏光ガンマ線の発生メカニズムが示された。
2011年12月、「イカロス」は推薬がほぼ枯渇したために姿勢制御が困難になり、冬眠モードと冬眠明けを繰り返すようになった。4回目の冬眠明けまでは衛星からの電波を受信できていたが、2015年5月に5回目の冬眠モードに移行した後は受信できておらず、今後再び電波を受信できる可能性は極めて小さいと判断されてこのたびの運用終了に至った。
「イカロス」が実証した技術は、現在様々なミッションに引き継がれつつある。ソーラーセイルに関しては、開発が進められている超小型ソーラーセイルによる姿勢・軌道統合制御実証「PIERIS」に生かされている。また、小惑星探査機「はやぶさ2」拡張ミッションや次世代小天体サンプルリターン等では、太陽光圧トルクを活用した姿勢制御が実施中、または実施される予定だ。ソーラー電力セイルについては薄膜太陽電池パドルの開発が進められていて、外惑星探査機「OPENS」プログラムなどへの適用が構想されている。
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