木星の明滅するX線オーロラのメカニズム

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木星で見られるX線オーロラおよびその明滅のメカニズムが、地球軌道上のX線天文衛星XMM-ニュートンと木星探査機ジュノーの連携観測で明らかになった。

【2021年7月16日 ヨーロッパ宇宙機関

太陽系最大の惑星である木星でも、南北両極付近ではオーロラが発生する。衛星の一つイオの火山から運ばれてきた荷電粒子が木星の大気に衝突することがオーロラの原因であることはわかっているが、そもそも粒子がどうやって大気へ突入するに至るかについては未解明だった。

木星のオーロラ
ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた木星のオーロラ。可視光線画像と紫外線画像を合成(提供:NASA / ESA / J. Nichols (University of Leicester)

木星と地球のオーロラは、どちらも惑星の磁場によって極圏へ運ばれた荷電粒子が大気と衝突する現象である点では同じだが、いくつかの点で大きく異なる。

地球の場合、オーロラが見られるのは緯度65~80度付近で、南北の磁極を取り巻くドーナツ状の領域だ。地球磁場の磁力線はだいたいこれらの地域から外へ突き出て、南北をつないで地球を包むような閉じた形をしている。磁極のすぐ近くから出る磁力線は太陽風による磁場とつながってしまうため外へ開いていて、磁気圏から荷電粒子が運ばれないのでオーロラは少ない。一方、木星の磁力線は南北が完全につながった閉じた磁力線であり、両極でもオーロラは見られる。

また、木星の場合は南極と北極でオーロラの現れ方が異なることもある。特にX線でオーロラを観測すると周期的に明滅することがある点も注目されている。

中国科学院地質・地球物理研究所のZhonghua Yaoさんたちの研究チームはこうした特徴に注目し、シミュレーションによってX線オーロラの明滅が木星の閉じた磁場と関係していることを示唆する結果を得ていた。これを検証するため、ヨーロッパ宇宙機関のX線天文衛星「XMMニュートン」とNASAの木星探査機「ジュノー」により遠近からの同時観測が実施された。

XMMニュートンは2017年7月16日から17日にかけて26時間連続で木星を観測し、27分周期で明滅するX線オーロラをとらえた。このときジュノーは木星上で夜明け前となる領域の上空62~68木星半径(1木星半径は71,492km、地球半径の約11倍)を飛行していた。シミュレーションによれば、ここがオーロラの明滅を引き起こす上で鍵となる領域だった。

この観測により、X線オーロラの明滅が木星磁場の変動に伴うものだったことが明らかになった。木星の自転に伴い、磁場も引きずられるように回転する。木星で朝を迎えるとき、上空では太陽風がぶつかって磁場が圧縮されるのだ。その結果、磁場に閉じ込められていた荷電粒子が加熱される。これが引き金となって、電磁イオンサイクロトロン波動(EMIC波動)と呼ばれる電波が生じる。そうして磁場内の荷電粒子(イオン)はEMIC波動に運ばれ、磁場に沿って移動して大気にぶつかり、X線オーロラとなるのである。

「ジュノーのデータには、見事に一連の出来事が見えています。磁場の圧縮が見えて、EMIC波動が引き起こされるのが見え、イオンが見えて、磁力線に沿って脈打つようにイオンが移動するのが見えます。その数分後に、XMMニュートンからは爆発的なX線放射が見えるのです」(英・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン ムラード宇宙科学研究所 William Dunnさん)。

木星のX線オーロラ発生の様子を描いた動画。磁場の圧縮が起こり、その磁場内で粒子が加熱されて、磁力線に沿って移動し大気へ突入することで、X線オーロラが発生する(提供:ESA/NASA/Yao/Dunn)

今回明らかになったX線オーロラのメカニズムは、木星以外の天体にも応用できるかもしれない。たとえば土星では衛星エンケラドスの氷火山から噴出した水が土星の磁場をイオンで満たしている。「これは、土星、天王星、海王星、そしておそらく系外惑星にも適用できる基本的なプロセスです」(Yaoさん)。