ダークマター不足の銀河、謎は深まる

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銀河NGC 1052-DF2がダークマターをほとんど含まないという異常は、この銀河までの距離が見積もりより近ければ解消できるとされていた。ところが距離を精査した結果、むしろ見積もりより遠かった。

【2021年6月25日 NASA

私たちが認識する銀河の姿は、恒星や星雲などの目に見える物質によるものだ。しかし、宇宙に存在する物質の大半は電磁波で観測できないダークマターであり、銀河も基本的に大部分がダークマターでできている。家が柱などの骨組みに沿って作られるように、星やその材料となる物質は、ダークマターの塊があって初めて銀河を形作るのだとされていた。

2018年、米・イェール大学のPieter van Dokkumさんたちの研究チームは、ダークマターをほとんど含まない銀河「NGC 1052-DF2」(以降DF2)をくじら座の方向に発見したと報告した(参照:「ダークマターのないシースルー銀河」)。本当にダークマターなしで銀河が作られたのだとすれば、銀河の形成や進化に関する理論は根本から見直しを迫られる。

銀河「NGC 1052-DF2」
ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した「NGC 1052-DF2」(提供:SCIENCE: NASA, ESA, STScI, Zili Shen (Yale), Pieter van Dokkum (Yale), Shany Danieli (IAS) IMAGE PROCESSING: Alyssa Pagan (STScI))

これに対して、実際にはDF2にはダークマターが含まれているのではという意見も少なくなかった。その根拠とされていたのは、DF2の地球からの距離6500万光年という推定が間違っていて、実際にはもっと近くにあるかもしれないというものだった。

直接観測できないダークマターがそこに存在していると言えるのは、目に見える星々の動きが根拠となっている。恒星の運動速度は銀河内の質量に依存するが、観測できる星と星間物質の質量を合わせてもバランスがとれないほど動きが速かった場合、そこにダークマターがある(ダークマターでバランスがとられている)はずだと結論づけられる。私たちの天の川銀河をはじめとした多くの銀河ではそうやってダークマターの存在が確認されてきた。

van DokkumさんたちはDF2の球状星団の運動を調べ、DF2の見かけの明るさから見積もられる質量だけでその速度をほぼ説明できてしまうと結論づけていた。しかしDF2までの距離がもっと近ければ、同じ見かけの明るさでも「真の明るさ」は暗く、それだけ質量も小さいという計算になる。そうなると、不足する質量を補うために、やはりダークマターが存在しているのだと言える。他の研究では、DF2までの距離は6500万光年ではなく4200万光年だという見積もりが提示されていた。

そこで、研究チームはDF2の距離をより正確に測るため、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)による観測を行った。ものさしとして使ったのは赤色巨星である。中心部での水素の核融合を終えた恒星は赤色巨星となり、やがてヘリウムなどの重い元素による核融合へと移行していく。その途中の「赤色巨星分枝先端」に達した星は、元々の質量によらず同じような明るさになることが知られている。そこで、多数の星を撮影して明るさと色を調べ、その中から赤色巨星分枝先端に達しているものを見つけ、見かけの明るさから距離を見積もった。

得られた結果は、7200万光年だった。これはダークマターが存在するという主張で提示された4200万光年どころか、van Dokkumさんたちが当初見積もった6500万光年よりも遠い。

DF2の大きさは天の川銀河と同じくらいだが、星の数は200分の1しかなく、星がまばらで奥の銀河が透けて見える。また中心部、腕、円盤といった構造も見当たらない。van Dokkumさんたちはこの銀河に含まれるダークマターが、通常予想される質量の400分の1以下だと見積もっていたが、今回の距離測定でこの結論が強固になった。「私たちが銀河を見るとき、普通はダークマターがあるため、質量の大半を見ることができない、ということになります。HSTで見えるのは、氷山の一角にすぎません。ですがこの場合、全ては見たままにそこにあります。HSTは本当に全てを見せてくれるのです。氷山の一角だけではありません、氷山が丸ごと見えています」(van Dokkumさん)。

ダークマターが著しく欠乏している銀河はほかにも発見されている。米・プリンストン高等研究所のShany Danieliさんが2020年にHSTで観測した銀河「NGC 1052-DF4」(以降DF4)もその一つだ。名前のとおり、DF2とDF4は比較的近くにある。今回DF2の距離が見直された結果、両者は650万光年離れていると結論づけられたが、それでも元々は同じ銀河群に所属し、同じ時期に誕生したのではないかと考えられている。その環境に、ダークマター不足の原因があるのかもしれない。

2020年にはダークマターが欠乏した矮小銀河が19個見つかっている。「(DF2の発見を報告した)2018年の論文で私たちはこう提案しました。もしダークマターを含まない銀河があって、似たような銀河には含まれているのがわかったなら、それはダークマターが間違いなく実在していることを意味するのです、と。幻影ではないのです」(van Dokkumさん)。

今回の研究成果の紹介動画「Mystery of Galaxy’s Missing Dark Matter Deepens」(提供:NASA Goddard)