最重量の中性子星?最軽量のブラックホール?謎の重力波源

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太陽質量の23倍と2.6倍という高密度天体の合体による重力波が検出された。後者の質量は中性子星にもブラックホールにも当てはまらず、正体が注目される。

【2020年6月26日 LIGO Caltech

太陽の約8倍より重い恒星は、一生の最期に自らの重力で崩壊して超新星爆発を起こし、あとには超高密度の小さな天体が残される。元の星がかなり重い場合にはブラックホール、やや軽い場合には中性子星が残されると考えられている。

中性子星はほぼ中性子だけでできた直径数十kmの天体で、原子核を形づくる陽子・中性子に働くのと同じ「核力」が星自体の強い重力を支えている。だが、あまりにも重い中性子星は核力でも重力を支えることができず、つぶれてブラックホールになってしまう。中性子星でいられる上限質量を明らかにすることは天体物理学の重要な問題だが、まだよくわかっていない。様々な理論から、おおよそ太陽質量の2.1~2.5倍までとされており、実際の観測では2.1倍前後の中性子星がこれまでに複数見つかっている。

一方で、「最も軽いブラックホール」にも未解明の謎がある。超新星爆発の後に残される「星の芯」の質量が太陽の2.1~2.5倍より重ければ中性子星ではなくブラックホールになるはずだが、実際に観測されている軽いブラックホールは太陽の約5倍までで、これより軽いものはなぜか一つも見つかっていないのだ。

つまり、質量が太陽の2.5~5倍の範囲は、中性子星は理論的に存在できず、ブラックホールもなぜか観測されない「空白域」になっている。研究者はこの領域をコンパクト天体の「質量ギャップ」と呼んでいる。

2019年8月14日に米国の「LIGO」とヨーロッパの「Virgo」がとらえた重力波「GW190814」は、その波形から、地球から約8億光年の距離で、太陽質量の23倍と2.6倍の天体が合体して約25太陽質量のブラックホールになった現象であることが明らかになった。23太陽質量の天体はブラックホールだと考えられるが、2.6太陽質量の天体の方は、観測史上初めて「空白域」を埋める質量を持った天体ということになる。

「この天体が最も重い中性子星なのか、それとも最も軽いブラックホールなのかはわかりませんが、いずれにしてもこれまでの記録を塗り替えるものです」(米・ノースウェスタン大学 Vicky Kalogeraさん)。

「今回の発見によって、中性子星とブラックホールの説明は変わるでしょう。実際には質量ギャップなど存在せず、観測能力の限界のせいで見つからなかっただけかもしれません。時間が経って、より多くの観測結果が積み上がれば答が出るでしょう」(米・ウィスコンシン大学ミルウォーキー校 Patrick Bradyさん)。

GW190814のイメージイラスト
重力波「GW190814」を発生させた天体のイメージイラスト。太陽質量の23倍のブラックホール(左)と2.6倍の天体(右)の合体現象であることがわかったが、軽い方の天体は中性子星かブラックホール、どちらだとしても記録破りの結果だ(提供:LIGO/Caltech/MIT/R. Hurt (IPAC))

LIGOとVirgoでGW190814が検出されると直ちにアラートが出され、各地の地上望遠鏡や軌道上の観測衛星によってこの現象の残光観測が行われたが、残光はとらえられなかった。これまでに重力波イベントの残光観測に成功したのは2017年の「GW170817」が唯一の例で、この現象は2個の中性子星の合体だった(参照:「連星中性子星の合体からの重力波を初検出、電磁波で重力波源を初観測」)。

今回、GW190814の追観測で残光がとらえられなかった理由はいくつか考えられる。GW190814はGW170817に比べて距離が6倍も遠いため、残光が暗すぎて観測できなかったのかもしれない。また、もし軽い方の天体もブラックホールだったとすれば、ブラックホール同士の合体になるため光は全く出ない。一方、軽い方の天体が中性子星だったとすると、9倍も重いブラックホールに一気に丸飲みされ、光が放射されなかったのかもしれない。

GW190814のシミュレーション
「GW190814」の重力波を再現するシミュレーションのスナップショット画像。質量比が9.2:1でともに自転していない2個のブラックホールが合体したとすると、観測された波形をよく再現できる。2天体の質量比が大きいと、放出される重力波信号の「倍音」成分が強くなる(提供:N. Fischer, S. Ossokine, H. Pfeiffer, A. Buonanno (Max Planck Institute for Gravitational Physics), Simulating eXtreme Spacetimes (SXS) Collaboration)

「今回の現象は、コンパクト天体の連星の全く新しいグループの姿を初めて垣間見たものです。この成果は始まりにすぎないという点で実にエキサイティングです。検出器の感度が向上すればこうした信号をもっと多く観測することができ、中性子星やブラックホールの質量や数を正確に決めることができるようになるでしょう」(英・カーディフ大学 Charlie Hoyさん)。

LIGOによって検出された天体の質量チャート
これまでに観測で質量が求められた中性子星とブラックホールの一覧(縦軸の単位は太陽質量)。青で描かれているのがLIGO/Virgoの重力波観測で質量が求められたブラックホール。中央が今回の「GW190814」で、23太陽質量のブラックホールと2.6太陽質量の謎の天体の合体で25太陽質量のブラックホールができた。紫は光や電波などの電磁波観測で質量が決まったブラックホールで、黄色は同じく電磁波観測で質量が決まった中性子星、オレンジ色はLIGO/Virgoの重力波観測で質量が決まった中性子星を表す(提供:LIGO-Virgo/Frank Elavsky & Aaron Geller (Northwestern))