光のリングから同定された、孤立した中性子星
【2018年4月12日 ヨーロッパ南天天文台】
大質量星は一生の最期に超新星爆発を起こし、星に含まれていた物質を周囲にまき散らす。この物質が光って見えるのが超新星残骸で、おうし座のかに星雲や、はくちょう座の網状星雲のように複雑なフィラメント状の構造が見られるものも多い。超新星残骸の研究から、大質量星の内部で起こる元素合成や超新星爆発の物理過程などを理解する手がかりが得られる。
こうした超新星残骸の中心には、爆発した星の核の部分である中性子星が残される。中性子星は、直径は10kmほどと非常に小さいが太陽よりも重い超高密度の天体だ。高速で自転し電波を発する、パルサーと呼ばれるタイプの中性子星は発見は容易だが、磁場が弱い孤立した中性子星の場合はX線でしか観測ができないため、見つけるのは非常に難しい。
ヨーロッパ南天天文台(ESO)のFrédéric Vogtさんたち研究チームは、地球から約20万光年の距離に位置する矮小銀河、小マゼラン雲内に存在する超新星残骸「1E 0102.2-7219」(以降、E 0102)を、ESOの超大型望遠鏡VLTに搭載されている分光器MUSEを使って調べた。E 0102は、超新星爆発からまだ2000年ほどしか経っていない若い超新星残骸だ。
すると、E 0102の中に、ネオンと酸素を含む、ゆっくりと広がっているリング状のガスが見つかった。
超新星残骸1E 0102.2-7219。複数の観測機器のデータから作られた擬似カラー画像。中心やや下の赤いリングがMUSEにより明らかにされた部分(提供:ESO/NASA, ESA and the Hubble Heritage Team (STScI/AURA)/F. Vogt et al.)
リング状のガスの中心には、以前から存在が知られていたものの正体が不明であったX線源がある。このX線源は超新星残骸の内部に存在するものなのか、それとも偶然重なって見えているだけのものかはわかっていなかったが、今回VogtさんたちがX線源の周囲にリング状のガスを発見したことにより、このX線源は間違いなく超新星残骸の内部にあるに違いないことがわかった。
Vogtさんたちはさらに、NASAのX線宇宙望遠鏡「チャンドラ」による観測データから、この天体の強度やスペクトル分布を調べた。また、ハッブル宇宙望遠鏡の観測データには対応する(可視光線で見える)天体がないことも確認した。これらの特徴から、このX線源は、超新星残骸「カシオペヤ座A」や「とも座A」の中心に存在するものと同様の「磁場の弱い孤立した中性子星」であると結論付けられた。
「これは、天の川銀河の外で確認された、この種の天体の第1号です。MUSEを天体発見へと導くツールとして利用したおかげで得られた成果です。普通の方法ではとらえにくい星の残骸の発見や研究に、新しいチャンネルを開く可能性がある結果だと考えています」(ESO Liz Bartlettさん)。
〈参照〉
- ヨーロッパ南天天文台:Dead Star Circled by Light - MUSE data points to isolated neutron star beyond our galaxy
- Nature Astronomy:Identification of the central compact object in the young supernova remnant 1E 0102.2-7219 論文
〈関連リンク〉
- VLT
- X線天文衛星「チャンドラ」:
- HubbleSite
- アストロアーツ 投稿画像ギャラリー:小マゼラン雲
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