共生する不安定な星、みずがめ座R星

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生物学で「共生」とは、2つの生物が相互関係を持ちながら共に生きることを指す言葉だ。天文学でも同様に、「共生星」と呼ばれる種類の天体がある。そのなかの一つが変光星「みずがめ座R星」だ。

【2017年6月9日 Chandra X-ray Observatory

みずがめ座R星は地球から約710光年の距離にある天体で、約1000年ほど前にはすでに明るさが変わる星であることが知られていた。その正体は単独の星ではなく、密度が高く小さな白色矮星と低温の赤色巨星のペアだ。

このうち赤色巨星は「ミラ型変光星」というタイプの長周期変光星で、星全体が周期的に膨れたり縮んだりすることによって250倍も明るさが変化する。白色矮星の明るさはその1万分の1ほどしかない。表面温度も、赤色巨星が3000度、白色矮星は2万度と大きく異なる。

また、質量は白色矮星がやや軽い程度だが、白色矮星のほうが圧倒的に小さいため、表面での重力は強くなる。その結果、赤色巨星の外層が白色矮星に引っ張られ表面に積もっていく。そして白色矮星の表面に十分な量の物質が降着すると、水素の熱核融合が引き起こされて新星爆発が起こる。爆発によって星の外層は時速数千万km以上の速度で吹き飛ばされ、エネルギ―と物質が宇宙空間に放出される。

みずがめ座R星
みずがめ座R星。X線(青)と可視光線(赤)の観測データを合成(提供:X-ray: NASA/CXC/SAO/R. Montez et al.; Optical: Adam Block/Mt. Lemmon SkyCenter/U. Arizona)

こうした新星爆発は繰り返し起こる。1073年に起こった爆発は韓国の「高麗史」に客星の出現として記録が残されているほか、南極の氷にも情報が刻まれている。さらに1770年代初めに起こった爆発の跡は、画像中の赤いリングとしてとらえられている。

1999年にX線天文衛星「チャンドラ」が打ち上げられて以降、みずがめ座R星はX線でも継続的にモニター観測されるようになり、画像(青色)に見られるような上方左へと延びるX線ジェットの存在が明らかになった。X線は衝撃波で発生しているようだ。さらに、2000年、2003年、2005年にはジェット中に変化が見られており、X線を放射する塊が星から時速220万kmと300万kmの速度で離れていったこともわかっている。これらの塊は1950年代と1980年代に起こった、エネルギーの低い爆発で作られたらしいと計算されている。

2007年に米・ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのJoy Nicholsさんたちの研究チームが、みずがめ座R星で新しいジェットを検出した可能性を報告した。これは2000年代初めに別の爆発が起こったことを示唆している。エネルギーの比較的低い、まだよくわかっていない爆発現象が数十年毎に繰り返し起こっているとすると、そのような爆発が次に起こるのは、10年以内ということになる。

一方で、みずがめ座R星が周期的に新星爆発を起こす反復新星だとすれば、肉眼でも見えるほど明るくエネルギーの高い新星爆発が再び起こるのは(前々回が1073年、前回が1773年ごろなので)2470年ごろということになる。共生星みずがめ座R星の不安定な関係の性質は、今後の継続的なX線観測などで理解されていくことだろう。

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