生命に必須のリンは重い新星で大量に作られた

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重い白色矮星が起こす新星爆発で、生命に必須の元素であるリンが大量に合成されることが理論研究により示された。

【2024年5月14日 国立天文台JASMINEプロジェクト

宇宙に存在する酸素や炭素など様々な元素は、恒星内部での核融合反応や重い恒星が起こす超新星爆発などによって合成され、宇宙空間にばらまかれていく。こうした元素が惑星を作る材料になり、さらにはそこで誕生する生命の材料ともなった。

DNAやRNAにも含まれるリンは、地球型生命に欠かせない必須の元素だ。従来、リンは全て超新星爆発で合成・放出されると考えられてきたが、理論予測で合成されるリンの量が観測結果よりもはるかに少ないため、理論の見直しが求められていた。

豪・西オーストラリア大学の戸次賢治さんと国立天文台の辻本拓司さんは、超新星以外にリンを合成する天体として新星の可能性を示す研究成果を発表した。戸次さんたちが注目したのは、太陽の7~8倍の質量をもつ星を起源とする「重い白色矮星」だ。このタイプの白色矮星の質量は太陽の約1.3倍で、平均的な白色矮星の2倍以上もある。酸素、ネオン、マグネシウムから構成されており、この白色矮星の表面に伴星のガスが積もって起こる新星爆発を「酸素・ネオン新星」と呼ぶ。

一般に新星で作られる元素量は超新星爆発に比べて圧倒的に少ないため、これまで新星は元素の供給源として注目されることがほとんどなかった。今回、戸次さんたちは酸素・ネオン新星でリンが桁違いに多く作られることを明らかにし、さらに酸素・ネオン新星の爆発が10億年以上の間に何度も繰り返し発生することを考慮すると、最終的なリンの合成量は超新星を大きく凌駕することを示した。

120億年間のリンの鉄に対する比率の進化とそれを解釈する理論的シナリオ
天の川銀河における鉄に対するリンの比率の、120億年間の進化を示す観測結果と、それを解釈する理論的シナリオ。(初期)リンは全て超新星由来。(中期)酸素・ネオン新星により、リンの含有量が急増する。リンが徐々に蓄積されていった結果、およそ80億年前の宇宙でリンの比率が最も高くなっていた。(80億年前から現在)新星の頻度が減少したことと、鉄を多く放出してリンを放出しないIa型超新星の影響により、再びリンの比率が減っていく(提供:Bekki & Tsujimoto 2024

今回の結果からは、太陽系が生まれた46億年前当時の天の川銀河では新星爆発によってリンが効率よく生産され、豊富に存在していたことが示唆される。酸素・ネオン新星によるリン合成は、地球の生命誕生の歴史にも大きく影響を与えたのかもしれない。

新星爆発によるリン生成から生命誕生までの概念図
新星爆発によるリン生成から生命(DNA)誕生までの概念図。白色矮星の表面に伴星からのガスが降り積もって新星爆発が起こり、その際の核融合反応で大量のリンが合成される。合成されたリンはやがて宇宙塵や隕石の一部として地球に降り注ぎ、DNAなどを合成し、生命の誕生へとつながったのかもしれない(提供:国立天文台)

〈参照〉