ダークエネルギーがなくても宇宙の加速膨張は説明可能

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宇宙の加速膨張はダークエネルギーによって引き起こされていると考えられているが、そのような正体不明のものの存在を考えなくても加速膨張は説明できるかもしれない。

【2017年4月4日 RAS

宇宙は138億年前に誕生してから膨張を続けている。これは「銀河が私たちから遠ざかる速度は、平均的には銀河までの距離に比例しており、遠い銀河ほど速い」という観測事実からわかっていることだ。

さらにIa型超新星の観測から、宇宙は加速膨張していることが明らかになっている。この加速膨張を引き起こしているのは、宇宙の全エネルギーの68%を占めている「ダークエネルギー」だと考えられている。広く受け入れられている説ではあるが、ダークエネルギーの正体はまったくわかっていない。

ハンガリー・エトヴェシュ・ロラーンド大学のGábor Ráczさんたちはコンピュータシミュレーションによって、時間の経過に伴う宇宙の構造の変化を研究し、ダークエネルギーの存在がなくても宇宙の加速膨張が説明できる可能性を示した。

宇宙の物質は大局的には一様に分布しているが、局所的にはむらがあり、密度が高くなっているところでは重力によって物質がさらに集まり銀河団や大規模構造が作られる。Ráczさんたちはこうした構造の進化をシミュレーションする際に、大規模構造を考慮に入れることで、場所により宇宙の膨張率が異なるというモデルを構築した。このモデルでも、宇宙の加速膨張の様子は全体として見れば観測結果と矛盾しないものとなる。

「一般相対性理論は宇宙の進化を理解するための基本となるものです。その正しさについては疑問はありませんが、(従来の)近似のやり方の妥当性が疑問なのです。今回の結果は差異のある空間膨張を許すような数学的推測に基づいたものですが、これは一般相対性理論に一致するものであり、複雑な構造の形成がどのように膨張に影響を及ぼすかを示すものです。ダークエネルギーを必要とせずに宇宙の加速膨張を説明できるのです」(エトヴェシュ・ロラーンド大学 László Dobosさん)。

今回の説が支持されるなら、物理学の今後の研究方向や宇宙モデルに相当なインパクトを与えることになるだろう。過去20年間、ダークエネルギーの性質がさまざま推測されてきたが、未だに謎のままである。新しいモデルの出現で、活発な議論が開始されることが期待されている。

様々な宇宙モデルにおける宇宙膨張の様子
様々な宇宙モデルにおける宇宙膨張の様子。上段は構造形成シミュレーションの結果で、各点が銀河団のような構造を表す。下段は宇宙の大きさを表す指標(縦軸)が宇宙誕生からどのように変化するかを示したグラフ。それぞれ、(赤)ΛCDMモデル(ラムダ・コールド・ダークマター・モデル;広く受け入れられている、ダークエネルギーで加速膨張する宇宙モデル)、(青)Averaモデル(今回提唱された、ダークエネルギーの必要性を削除した加速膨張する宇宙モデル)、(緑)アインシュタイン・ドジッター宇宙(ダークエネルギーがない膨張宇宙モデル)(提供:István Csabai et al.)

〈参照〉

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