銀河の星形成活動制御メカニズム、110億年前と現在で異なる可能性

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遠方の銀河に含まれる重元素量と星形成活動の強さの関係を観測調査したところ、重元素量が星形成の強度に関係しないことが示された。これまで近傍の宇宙で知られていた関係とは異なる結果であり、銀河における星形成の理論に新たな疑問を投げかけるものである。

【2016年5月18日 すばる望遠鏡ケック天文台

星形成活動を行っている銀河の重元素(ヘリウムより重い元素)の量は、銀河へのガスの流入や星形成、銀河からガスが流出する過程が複雑に絡み合った結果として現れる。どのくらいの量の重元素が銀河に存在するのか、その量が星形成活動の強さと関係性があるのかどうかを調べることは、銀河の進化を明らかにする上で重要な手がかりになる。

スイス連邦工科大学チューリッヒ校の小野寺仁人さん(現・国立天文台ハワイ観測所)たちの研究チームは、ハワイ・マウナケアにあるW.M.ケック望遠鏡を用いて、110億年前の宇宙で典型的に見られる星形成銀河を41個観測した。

観測された銀河の一つ
観測された銀河の一つ(青枠)と重元素の量を示すデータ(提供:3D-HST/NASA/ESA/STScI)

その結果、110億年前の(つまり遠方の)宇宙に存在する平均的な銀河の重元素の量が、現在の(近傍の)宇宙の平均的な銀河に比べてわずか2割程度しかないことが明らかになった。

さらに、遠方銀河の重元素量が星形成活動の度合いによらないことが新たに発見された。これまで近傍宇宙で知られていた「星形成活動が弱い銀河では重元素量が高い傾向にある」という関係とは対照的な結果であり、初期の宇宙では星形成活動を司る物理的なメカニズムが現在とは異なっていたことを示唆している。

銀河の重元素量を表すグラフ
銀河の重元素量を表すグラフ。横軸は銀河の大きさ(恒星質量)、縦軸は重元素量。同じ質量で比較すると、現在の銀河(2本の青いデータ)に比べて110億年前の銀河(四角のデータ)は重元素量が少ない。また、現在の銀河は星形成率が低いと重元素量が高い傾向にあるが、110億年前の銀河では傾向が見られない(提供:国立天文台)

遠方宇宙では宇宙の大規模構造から供給されるガスの流入のペースが速すぎるため、星形成活動が活発でも大量のガスをすぐには消費できないことが、重元素量の傾向が見られないことに関係しているのかもしれない。銀河の重元素量と星形成率、恒星質量の関係を理解することで、銀河の進化についてより深い洞察が得られると期待されている。

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