初期宇宙のクエーサーから強烈に噴き出す分子ガス

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初期宇宙の銀河で、星の材料である分子ガスが激しく大量に噴き出すアウトフローがとらえられた。分子ガスは短期間で枯渇するとみられ、アウトフローが遠方銀河の星形成を抑制するという理論予想を裏付ける結果だ。

【2024年2月8日 アルマ望遠鏡

宇宙の歴史のなかで銀河がいつどのようにして星を作りにくくなるのかは、天文学の大きな謎の一つである。宇宙誕生後わずか15億年ごろの遠方宇宙に、すでに星形成が不活発な巨大銀河が存在しており、こうした銀河は活発な星形成時期を経験した後、何らかの原因で星形成が抑制されたと考えられる。

原因の一つとして挙げられているのが、銀河からのガスの噴き出しである「アウトフロー」だ。たとえば現在の宇宙では、渦巻銀河の円盤の上下に噴き出すアウトフローが観測されている。とくに、星の材料である分子ガスのアウトフローは、銀河内の星形成の進み具合を調節する大切な働きをする。銀河における星形成の抑制メカニズムを明らかにするには、初期の宇宙に遡って星形成とアウトフローの関係を調べることが重要となる。

分子ガスのアウトフローを生み出す可能性がある天体として、銀河中心の超大質量ブラックホールに物質が落ち込むことで明るく輝くクエーサーと呼ばれるタイプの天体が存在する。しかし、宇宙初期のクエーサーにおいて分子ガスのアウトフローが観測された例は、これまでに2天体しかない。しかも、その2天体で観測されたアウトフローは、星形成の進行を左右し銀河の成長に影響を及ぼすほど強いものではなかった。

北海道大学高等教育推進機構のDragan Salakさんたちの研究チームは、宇宙年齢10億年未満の時代において最も明るいクエーサーの一つ、みずがめ座の「J2054-0005」をアルマ望遠鏡で観測した。その結果、星の材料となる分子ガスがアウトフローとして銀河の外へ激しく噴出していて、初期宇宙の銀河の成長に大きな影響を与えていたとみられる強い証拠を世界で初めて得た。

J2054-0005からの分子ガスのアウトフローは、観測者から見て手前側にあるガスがヒドロキシルラジカル(OH)分子固有の波長の電波を吸収することによって生じる「吸収線」を、いわば「影絵」のように観測することで明らかになったものだ。

分子ガス中のヒドロキシルラジカルによって生じる吸収線
(上)クエーサー「J2054-0005」から噴き出す分子ガスのアウトフローの想像図とヒドロキシルラジカル(OH)分子のイメージイラスト。(下)分子ガス中のOH分子によって生じる吸収線の説明図。放出されるガスは観測者方向へ向かうため、短い波長に吸収線の中心が移動(ドップラーシフト)する。この様子が観測されたことからアウトフローが示された。また、吸収線の幅が大きく広がっていて、アウトフロー中のOH分子が様々な速度であることがわかる(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), D. Salak et al.)

詳しい解析の結果、分子ガスが典型的には毎秒700km、最大で毎秒1500kmにも達する速度で銀河の外へ噴き出していることがわかった。この速度をもとに計算すると、J2054-0005から流出する分子ガスの量は1年間に太陽質量の1500倍ほどになる。これは銀河で1年間に誕生する星の質量の2倍に相当し、星の材料となる分子ガスが激しく失われていることがわかる。分子ガスのアウトフローが遠方銀河の星形成を抑制するという理論予想を強く裏付ける証拠だ。J2054-0005では、今後約1000万年という天文学的に非常に短い間に、分子ガスが枯渇すると予想されている。