低質量の球状星団にも見られる化学的な異常

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球状星団は化学組成が似通った星で構成されていると長い間考えられてきたが、近年になって、より複雑な性質を持つことを示す証拠が増えている。最新の観測研究からも、決して単純ではない球状星団の特徴が明らかになった。

【2016年4月26日 Phys.Org

伊・ボローニャ大学のAlessio Mucciarelliさんたちの研究チームは低質量の球状星団「NGC 6362」を観測し、この天体がこれまで考えられていたような単純な星団ではないことを示す研究成果を発表した。NGC 6362は、さいだん座の方向約2万5000光年の距離にあり、年齢は135億歳、質量は太陽5万個分と計算されている。

NGC 6362
球状星団NGC 6362(提供:ESO)

Mucciarelliさんたちはヨーロッパ南天天文台(ESO)の超大型望遠鏡(VLT)を使って、星団の周辺に存在する200個以上の巨星のスペクトルを取得し、星の運動や化学組成から、星団に属する星160個を特定した。

さらに、星団中の星それぞれについてナトリウムの割合を調べたところ、その割合が大きく異なる2種類の星が混在していることがわかった。他の大きな星団で観測される化学的異常が、小さな球状星団であるNGC 6362でも見られたということだ。こうした異常を示す星団としては、NGC 6362が一番軽い天体ということになる。

この研究から、太陽5万個分の質量を持つ星団でナトリウムが豊富な星を形成できることも明らかになった。つまりNGC 6362は、球状星団というものを正しく定義する最低質量の理解に向けて、重要な根拠の一つを提示したことになる。なお、質量が球状星団より少なくとも1桁小さい散開星団では、こうした異常は見られない。

今後の星団の形成と進化に関する理論は、この星団の性質も説明できるようなものにする必要があるだろう。また、NGC 6362には未解明の謎が残っているはずで、新たな観測も計画されている。