銀河間に散在する無数の球状星団
【2018年12月5日 HubbleSite】
地球から約3.2億光年の距離に位置する「かみのけ座銀河団」には、1000個以上の銀河が密集している。その領域内には銀河だけでなく、銀河から離れた多数の球状星団も存在している。また、電磁波では観測できないが、重力の影響からその存在を知ることができるダークマターも銀河団内に分布している。銀河団内のダークマターの分布の様子を調べるには、銀河よりも小さく数が多い球状星団のほうが良い指標となる。
ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した、かみのけ座銀河団のモザイク合成画像。画像の横幅は約220万光年に相当する。画像クリックで表示拡大(提供:NASA, ESA, J. Mack (STScI), and J. Madrid (Australian Telescope National Facility)、以下同)
オーストラリア国立望遠鏡機構のJuan Madridさんたちの研究チームは銀河団内の球状星団を見つけるため、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)で過去に行われてきたかみのけ座銀河団の画像を集めて、銀河団のモザイク合成画像を作成した。Madridさんが球状星団の分布を調べようと思ったきっかけは「HSTで撮影されたかみのけ座銀河団の銀河の画像は、どれにも球状星団が写っていた」ことだ。
Madridさんたちはさらに、球状星団が古い星で占められているために赤っぽく見えることや、(その名の通り)丸く写るという特徴を利用して、球状星団とそれ以外の天体(ほとんどは銀河団より遠くにある無関係の銀河)とを区別するアルゴリズムを開発した。
そのアルゴリズムをかみのけ座銀河団の画像に適用したところ、銀河団の中心領域に位置する複数の銀河の間に、22,426個もの球状星団の候補天体が検出された。これらの天体は銀河同士の接近によって、母銀河から離れて銀河間に散ってしまったものと考えられている。さらに、一部の球状星団が橋のように整列している様子も見られ、これも銀河同士の相互作用の影響と考えらえている。
かみのけ座銀河団の一部。青緑色の丸が球状星団の候補天体
HSTは高い感度と解像度を備えた優れた宇宙望遠鏡だが、視野が狭い点が玉に瑕だ。「NASAが計画中の『近赤外線広視野サーベイ望遠鏡(WFIRST)』では、銀河団全体を一度に観測することができます。広視野を活かした、驚くような成果がもたらされることでしょう」(Madridさん)。
〈参照〉
- HubbleSite:Hubble Uncovers Thousands of Globular Star Clusters Scattered Among Galaxies
- The Astrophysical Journal:A Wide-field Map of Intracluster Globular Clusters in Coma 論文
〈関連リンク〉
- HubbleSite
- WFIRST
- アストロアーツ 天体写真ギャラリー:かみのけ座銀河団
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