天の川銀河の歴史を物語る化石のような星団
【2016年9月12日 ヨーロッパ南天天文台】
いて座の方向約1万9000光年彼方にある「ターザン5」は、発見以来40年あまり球状星団として認識されてきた天体だ。
伊・ボローニャ大学のFrancesco Ferraroさんたちの国際研究チームがヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡(VLT)やハッブル宇宙望遠鏡などを用いてこの星団を観測したところ、ターザン5には明確に種類の異なる2種類の星が存在することがわかった。化学組成の違いだけでなく、両種には70億歳もの年齢差がある。
ハッブル宇宙望遠鏡で撮影したターザン5(提供:ESO/F. Ferraro)
年齢が2つに分かれているということは、ターザン5では連続的な星形成があったのではなく、2度の爆発的な星形成があったことを示している。「つまり、ターザン5には2番目の(若いほうの)星を誕生させるだけの大量のガスがあったはずです。少なく見積もっても太陽質量の1億倍はあったでしょう」(伊・国立天体物理研究所 Davide Massariさん)。
ターザン5の特徴は球状星団としては一般的ではないが、天の川銀河のバルジ(中心の膨らんだ部分)に見られる星の種族とはひじょうによく似ている。銀河形成に関する理論によれば、ガスや星でできた巨大な塊が相互作用して天の川銀河の原始バルジが形成されたと考えられているが、ターザン5は天の川銀河のバルジを形成した最初期の構成要素の生き残りなのかもしれない。「塊のいくつかは破壊されずに天の川銀河内に残っているでしょう。こうした生きた化石は、銀河の歴史再構築というパズルの重要なピースの一つなのです」(Ferraroさん)。
また、星形成が活発な遠方銀河に見られる塊の性質とターザン5の性質には似ている部分があり、遠方(過去)の銀河と近傍(現在)の銀河のどちらでも、形成初期段階では同じようなプロセスが起こることが推測される。
「今回の発見から、様々な疑問が出てきました。ターザン5はどのようにして生き残ったのか。2回目の爆発的星形成を引き起こした原因は何だったのか。わたしたちは、現在その答えを調べています」(米・カリフォルニア大学ロサンゼルス校 Michael Richさん)。
〈参照〉
- ヨーロッパ南天天文台: Astronomers Discover Rare Fossil Relic of Early Milky Way
- ハッブル宇宙望遠鏡: Hubble discovers rare fossil relic of early Milky Way
- W. M. ケック天文台: Rare Fossil Relic of Early Milky Way Discovered W. M. Keck Observatory
- The Astrophysical Journal: The Age of the Young Bulge-like Population in the Stellar System Terzan 5: Linking the Galactic Bulge to the High-z Universe 論文
〈関連リンク〉
- ヨーロッパ南天天文台: http://www.eso.org/
- ESA/Hubble: https://www.spacetelescope.org/
- W. M. Keck Observatory: http://www.keckobservatory.org/
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