蒸発する惑星が引き起こす「しゃっくり」

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若い赤色矮星を回る系外惑星から水素ガスが流出している様子が観測された。水素ガスは現れたり消えたりしており、その原因についていくつかの説が考えられている。

【2023年8月2日 NASA

けんびきょう座AUは地球から32光年の距離にある赤色矮星(M型矮星)で、年齢は約2300万年と推定されている。2020年に宇宙望遠鏡「スピッツァー」と「TESS」によって、系外惑星「けんびきょう座AU b」がトランジット法(主星の減光から惑星の存在を検出する方法)で発見された。惑星は主星からわずか960万kmの距離(水星の軌道半径の約1/10)を8.46日周期で公転している。半径は地球の約4倍というガス惑星で、海王星よりやや大きい。これまでに発見された系外惑星系の中で最も若いものの一つだ。

米・ダートマス大学のKeighley Rockcliffeさんたちの研究チームがハッブル宇宙望遠鏡を使い、この惑星によるトランジットを1年3か月おいて2回観測したところ、最初のトランジット(惑星が主星の手前を横切る現象)では普通の減光しか観測されなかったが、2回目のトランジットでは、惑星本体による減光に先立って、惑星から流出した水素ガスによる減光がはっきりとらえられた。惑星の大気がまるで高速列車のヘッドライトのように、惑星の「前方」に噴き出しているのだ。

けんびきょう座AU b
主星(赤)の手前を通過する惑星「けんびきょう座AU b」(黒)のイラスト。この惑星は活発な主星にきわめて近いため、激しい恒星風と紫外線が惑星の大気を加熱して水素ガスが流出している(提供:NASA, ESA, and Joseph Olmsted (STScI))

「トランジットを起こす系外惑星が、これほど短い間に、流出大気をまったく検出できない状態からはっきり検出できる状態へと移り変わるのは見たことがありません。私たちは非常に規則正しく予測可能な変化が観測されると思っていたので、最初に見たときには間違いかと思いました」(Rockcliffeさん)。

けんびきょう座AUのような赤色矮星は天の川銀河の中で最もありふれた恒星で、天の川銀河にある系外惑星の大半は赤色矮星を主星に持つと考えられる。だが、こうした赤色矮星を回る惑星は、生命の存在には適さないかもしれない。とくに大きなハードルは、若い赤色矮星は激しいフレアを発生させ、有害な放射線を出すという点だ。

恒星大気の運動によって強力な磁場がもつれ、フレアが発生する。大気の動きが非常に強いと磁力線が切れてつなぎ変わり、太陽フレアの100~1000倍という莫大なエネルギーを放出する。これによって恒星風とフレアとX線が惑星を直撃するのだ。

しかも、こうした赤色矮星の活動期は太陽のような星よりずっと長い。こうした灼熱の環境では、主星の誕生から1億年後までに生まれた惑星は大気のほとんどを流出させてしまうか、完全に大気が失われるかもしれない。

「私たちはどんな惑星がこうした環境を生き延びるのかを突き止めたいと思っています。主星の活動が落ち着いた後に惑星はどのように見えるのか。最終的に、生命の存在可能性はあるのか、ただの焼け焦げた惑星になるのか。大気のほとんどを失い、コアだけが残ってスーパーアースになるのか。このような惑星は太陽系にはないので、最終的な惑星の姿は全くわかりません」(Rockcliffeさん)。

けんびきょう座AU bの大気の変化は、主星からの物質放出が急速に極端な変化を見せることを反映しているのかもしれない。1回目のトランジットの7時間前には主星で強力なフレアが発生したことがわかっており、1回目に水素ガスが検出されなかったのは、惑星から流出した水素ガスがこのフレアによって電離されたせいかもしれない。

もう一つの説明として、主星の恒星風自体が惑星からの大気の流出を引き起こしているという可能性もある。恒星風の変化によって、惑星の前方に「しゃっくり」のように間欠的にガスが流出するという現象だ。これはいくつかのモデルでも予測されており、今回の観測はこの「しゃっくり」現象が実際に起こっていることを示す初の観測的証拠だと研究チームは考えている。

研究成果の解説動画 "Hubble Sees Evaporating Planet Getting The Hiccups"(提供:NASA Goddard Space Flight Center, Lead Producer: Paul Morris)

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