ローマン宇宙望遠鏡の系外惑星観測用コロナグラフが準備完了

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NASAのナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡に搭載される、暗い惑星の直接検出に用いられるコロナグラフ装置の準備が完了した。この装置の光学素子はJAXAが提供している。

【2024年5月30日 JAXA宇宙科学研究所

NASAは、超大型の宇宙望遠鏡「ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡」(以降、ローマン宇宙望遠鏡)を開発しており、2027年ごろまでの打ち上げを目指している。望遠鏡の名称は、NASAで女性として初めて幹部職に就き、初の主任天文研究者を務めた天文学者に因むものだ。

ローマン宇宙望遠鏡のイメージイイラスト
ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡のイメージイラスト(提供:NASA/JPL-Caltech、以下同)

ローマン宇宙望遠鏡の主鏡の直径はハッブル宇宙望遠鏡と同じ2.4mだが、一度に観測できる領域は200倍も広い。その広視野を活かして大量の銀河や超新星爆発の光度変化を観測し、宇宙膨張の歴史と銀河の分布構造を精密に測定する。また、コロナグラフ装置(CGI: Coronagraph Instrument)を使って系外惑星を数千個発見し、系外惑星の軌道分布の全貌を明らかにすることも計画されている。

コロナグラフとは中心の星の光を隠すことにより、星の光に埋もれた微かな天体や現象を観測することを可能にする装置だ。CGIでは、恒星のわずか数千万分の1の明るさしかない惑星を、明るい中心星からわずか0.2秒角離れたところに検出するという高コントラスト観測の技術実証を目指している。このたび、CGIの最終試験が行われ、求められる性能を達成していることが確認された。

コロナグラフ装置
NASAゴダード宇宙飛行センター(米・メリーランド州)への輸送に向けて、ジェット推進研究所(カリフォルニア州)でコンテナーへ収められるコロナグラフ装置(5月17日撮影)

CGIではさらに、データ取得後の様々な解析による工夫を含め、10億分の1の高コントラストに迫ることも検討している。この技術を応用すれば、将来の地球類似惑星の探査において、中心星に非常に近くて暗い惑星を直接とらえることが可能になるだろう。系外惑星の直接観測ができると、惑星大気や表面についての情報が得られ、地球類似惑星における生命の兆候(バイオマーカー)の発見につながると期待されている。

日本もローマン宇宙望遠鏡計画に協力していて、CGIの光学素子をJAXAが提供している。また、膨大なデータの受信協力や、すばる望遠鏡との協調観測などを行うことにもなっている。

「私たち以外に生命は存在するのかという謎を探るための野心的な挑戦を行おうとしています。このコロナグラフ装置は、地球類似惑星を観測するための大きな技術的ステップになります。今回の試験結果は大変心強く、今後の望遠鏡の完成・打ち上げが楽しみです。コロナグラフの主要な光学素子に寄与していることは日本の大きな貢献と言えます」(JAXA宇宙科学研究所・ローマン宇宙望遠鏡プロジェクトリーダー 山田亨さん)。

コロナグラフ装置の紹介動画「Seeing Exoplanets Like Never Before With the Roman Coronagraph (Instrument Overview)」(提供:NASA/JPL-Caltech/GSFC)

コロナグラフ装置による系外惑星観測の紹介動画「The Roman Space Telescope's Coronagraph Instrument」(提供:NASA's Goddard Space Flight Center)