20分周期で公転するヘリウム白色矮星連星

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公転周期がわずか20分という白色矮星同士の連星が発見された。将来の宇宙重力波望遠鏡で検証用の重力波源天体として利用できそうだ。

【2020年4月8日 ハーバード・スミソニアン天体物理学センター

2015年にアメリカの重力波望遠鏡(重力波検出器)「LIGO」が初めて重力波の直接検出に成功して以来、現在ではLIGOと欧州の検出器「Virgo」で日常的に重力波が検出されるようになっている。また昨年秋に日本の重力波望遠鏡「KAGRA」が完成し、今年2月から連続運転を開始している(参照:「 重力波望遠鏡「KAGRA」が観測開始」)。

これら地上の重力波望遠鏡は、主に周波数が10~10kHz(波の振動回数が毎秒10~1万回)の重力波をとらえる設計になっている。一般に、2個の天体が回り合う「連星」が重力波を放出する場合、その重力波の周波数は公転の周波数の2倍になる。つまり、LIGOやVirgoでは1秒間に数十回から数千回も互いの周りを回るような激しい公転天体からの重力波をターゲットにしていることになる。これまでの検出例では、質量が太陽の10~30倍程度のブラックホール連星や中性子星同士の連星が猛烈に公転しながら合体する最終段階で出る重力波がキャッチされている。

一方、宇宙にはもっとゆっくり振動する重力波も存在すると考えられている。たとえば、きわめて接近した白色矮星同士の連星や、質量が太陽の数百万倍から数十億倍という超大質量ブラックホール同士の連星では、公転周期が数分~数時間という長さになるため、発生する重力波の周波数は0.0001~1Hz(1~1万秒に1回振動)という比較的ゆっくりしたものになる。

このようなゆっくりした重力波は地震波のような地面の振動の周波数に近いため、地上の重力波望遠鏡ではノイズに埋もれてしまい、まったく観測できない。そこで、宇宙空間に検出器を打ち上げてこうした低周波の重力波を検出しようという計画が進められている。代表的なものが、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)が2034年に打ち上げを予定している「LISA(レーザー干渉計宇宙アンテナ)」や、日本で計画されている「DECIGO(0.1ヘルツ帯干渉計型重力波天文台)」だ。

米・ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのWarren Brownさんたちの研究チームは白色矮星同士の近接連星に着目し、LISAが稼働した際に動作検証に使えるような白色矮星連星の候補を位置天文衛星「ガイア」の恒星データから選び出して詳細な観測を行った。

その結果、うお座の方向約2400光年の距離にある天体「SDSS J232230.20+050942.06(以下 J2322+0509)」が、LISAで重力波の検出を期待できるような白色矮星連星であることを突き止めた。

Brownさんたちが米・フレッド・ローレンス・ホイップル天文台のMMT望遠鏡やチリ・ラスカンパナス天文台のマゼラン望遠鏡、米・ハワイのジェミニ北望遠鏡を使って分光観測を行った結果、J2322+0509は質量が太陽の0.27倍と0.24倍の白色矮星からなる連星系で、2つの星の距離は13万5000km(地球から月までの距離の約1/3)、公転周期はわずか1201秒(約20分)と求められた。これは、2つの星の表面同士が接触していない分離型の近接連星としては、これまでに発見された中で3番目に公転周期が短いものだ。

J2322+0509
今回発見された白色矮星連星J2322+0509のイラスト。2030年代に稼働予定のESAの宇宙重力波望遠鏡「LISA」で、動作検証に使える重力波源天体になると期待されている(提供:M. Weiss)

「この連星は公転周期が非常に短く、連星系としての寿命の最期にさしかかっています。重力波を放出することでエネルギーを失い、連星の軌道がだんだん近づいています。600万~700万年後には2つの星は合体して1個の大きな白色矮星になるでしょう」(Brownさん)。

白色矮星は、比較的軽い星が核融合反応の燃料を使い果たした「燃えかす」の天体だ。単独の恒星の場合、一生の最期に炭素・酸素からなる白色矮星になるが、近接連星の場合には、片方の星が赤色巨星へと進化した段階で、膨らんだ外層のガスが相手の星に向かって流れ出し、ヘリウムでできた中心核だけが残って「ヘリウム白色矮星」というタイプの白色矮星になることがある。今回の研究で、J2322+0509は2つの星が共にヘリウム白色矮星という連星系であることが明らかになった。

「これまでの理論で、ヘリウム白色矮星の連星はたくさん存在すると予測されていました。今回の発見はこうしたモデルを支持するもので、将来こうした連星系をさらに発見し、その存在数を決める上での基礎となる結果です」(Brownさん)。

J2322+0509は公転周期がきわめて短く、また地球から見て連星系の公転面をほぼ真上から観測する向きになっているため、公転面を横から見る「食連星」の配置になっている場合に比べて、地球に届く重力波が2.5倍も強い。そのため、地球から見て最も強い重力波源になる可能性もあり、将来LISAで重力波検出の確認に使われる検証用連星 (verification binaries) として格好の天体になるだろう。

「検証用連星はLISAが稼働を始めれば数週間以内に確実に信号を検出できることが明らかな天体で、非常に重要なものですが、今のところ数個しか知られていません。今回、ヘリウム白色矮星連星という新たなタイプの検証用連星になりうる天体が見つかったことは、LISAにとって期待以上の追い風となることでしょう」(米・オクラホマ大学 Mukremin Kilicさん)。

(文:中野太郎)