高速電波バーストの頻度と歴史から正体に迫る

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正体不明の現象「高速電波バースト」の統計から、単発型は白色矮星など、リピート型はマグネターなどが起源ではないかと推定する研究成果が発表された。

【2021年3月22日 国立清華大学天文研究所

高速電波バースト(fast radio burst; FRB)は、宇宙から突然強力な電波信号がやってくる現象だ。これまでに100個以上観測されており、毎日1000回以上も発生していると推定されている。私たちの天の川銀河よりずっと遠い宇宙で起こっているとみられるが、電波がわずか1000分の1秒ほどで消えてしまうため、正体はいまだ謎だ。FRBの正体を突き止めることは、ここ10年以上にわたって天文学の最重要課題の一つとなっている。

FRBの検出イメージ
FRBが地上の電波望遠鏡で検出される様子を表したイラスト(提供:C.-C. Ho and L.-C. Ho)

FRBには、1回だけ観測される「単発型」と、天球上の同じ位置で何度も発生する「リピート型」の2種類がある。FRBの発生位置を突き止めて正体を探る試みも続けられているが、母天体が明らかになったFRBはこれまでに数例しかない(参照:史上2例目、反復型高速電波バーストの源を特定)。

FRBの起源候補
FRBの起源候補。上は寿命が数十億年と長い天体、下は寿命が100万年以下の若い天体(提供:Mark Garlick / B. Kiziltan / T. Karacan / Nature Astronomy / MIT Kavli / NASA / 橋本哲也さん)

台湾・国立清華大学天文研究所の橋本哲也さんたちの研究チームは、これまでに観測されたFRBが宇宙の歴史のどの時点で発生したのかという、時代ごとの発生数を統計調査し、そこから母天体の推定を試みた。

宇宙では、地球からの距離が遠い天体ほど時代が古いことになるため、FRBの発生源までの距離がわかれば起こった時代がわかる。だが、FRBのほとんどは母天体すら見つかっていないので、スペクトルを観測して赤方偏移から距離を求めるという普通のやり方は使えない。

そこで橋本さんたちは、FRBの電波が地球に到着する時刻が周波数によってわずかにばらつく現象を利用して、発生源までの距離を求めた。FRBで放出される電波には様々な周波数のものが混ざっているが、こうした電波が宇宙空間を伝わる途中で電離ガスの中を通ると、電波の伝わる速度に周波数ごとでわずかな差が生じる。白い光がプリズムで様々な色(波長)の光に分散するのと同じような現象だ。

この速度のばらつきの度合い(分散度、dispersion measure)が大きいほど、地球に届くまでの間に様々な電離ガスの中を何度も通過している、つまり、FRBの発生源までの距離がより遠いと考えられるので、分散度の大きさがわかればFRBの発生源までの距離を見積もることができる。

この方法で時代ごとのFRBの発生数を調べたところ、単発型のFRBは過去100億年にわたってほぼ一定の割合で起こっているのに対し、リピート型FRBの発生数は約100億年前の方が現在よりもおよそ10倍も多かったことがわかった。

この単発型FRBの発生数の特徴は、比較的軽くて寿命が長い恒星の数が過去100億年にわたってほぼ変わらないという傾向とよく似ている。このことから、単発型FRBの正体は白色矮星や中性子星、恒星質量ブラックホールなどではないかと研究チームは推定している。

一方、リピート型FRBが時代を遡るほど多くなるという結果は、宇宙の初期ほど銀河の星形成や銀河中心にある巨大ブラックホールの活動が活発だという傾向に似ている。そのため、リピート型FRBの正体は、比較的重くて寿命が短い恒星や活動銀河核に関係する天体、たとえば超新星残骸や若いパルサー、マグネター、超大質量ブラックホールなどではないかと考えられるという。

FRBの正体
2種類のFRBの正体と考えられる天体の例。単発型は白色矮星など長寿命の天体、リピート型はマグネターのような若い天体と関わりがある可能性が考えられる(提供:C.-C. Ho and L.-C. Ho / 橋本哲也さん)

研究成果の解説動画(提供:NTHU Cosmology)

〈参照〉

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