エンケラドスで複雑な有機分子を検出

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探査機「カッシーニ」のデータから、土星の衛星エンケラドスで複雑な有機分子が生まれていることがわかった。エンケラドスにある地下海は生命に適した条件を備えているという説を支持する結果だ。

【2018年7月3日 ヨーロッパ宇宙機関

NASA/ESAの土星探査機「カッシーニ」は2005年に衛星エンケラドスへの接近飛行を行った。これ以降の探査によって、直径500kmのエンケラドスの厚い氷の地殻の下には大規模な地下海が隠れていることが明らかになっている。さらに、エンケラドスの表面には巨大な間欠泉があり、水蒸気と氷の粒子を地下海から宇宙空間に噴出している。この水はエンケラドスの氷地殻にできた「タイガー・ストライプス」と呼ばれている割れ目から噴き出していて、噴出した物質は土星のE環などに供給されている。

エンケラドスの間欠泉
エンケラドスの間欠泉。「カッシーニ」の望遠カメラで2010年11月30日に撮影(提供:NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)

独・ハイデルベルク大学のFrank Postbergさん、Nozair Khawajaさんたちの研究チームは、エンケラドスから放出された氷粒子の中から有機物の高分子の断片を発見した。水を持つ地球外天体で複雑な有機物が検出されたのはこれが初めてだ。

今回検出された分子の断片は分子量が200ほどで、複雑な有機分子によく見られるような環状や直鎖状の構造を作っている。この有機物は氷の粒子としてカッシーニのダスト分析装置に時速3万kmで衝突した。研究チームでは、装置に衝突する前の氷粒子には分子量が数千にもなる大きな分子が含まれていたと考えている(※分子の重さは「分子量」で表される。水素原子の重さを1として、分子に含まれる原子の重さを合計したものだ。水素分子H2 の分子量は2、水分子H2Oの分子量は18となる)。

これまでカッシーニのエンケラドス探査では、今回検出された断片よりずっと小さな有機分子しか検出されていなかった。このような巨大有機分子は複雑な化学反応でしか作られない。この化学反応には生命に関係する反応も含まれる。もしくは、一部の隕石で見つかっているような始原的な有機物に由来しているか、あるいは熱水活動で作られた可能性も高い。

「個人的には、私たちが見つけた分子片は熱水活動が盛んなエンケラドスの核の中で作られたと思っています。核には高圧で暖かい環境があるはずなので、複雑な有機分子が生成される可能性があります」(Postbergさん)。

最近のシミュレーションでは、エンケラドスの中心部に地下海の海水を通すような多孔質の核があれば、熱水活動を数千万年持続できるほどの熱が潮汐摩擦で生じることが示されている(参考:エンケラドスの地下海で数十億年続く熱水環境)。

エンケラドスから有機物が放出されるしくみ
(左)エンケラドスの内部。氷の地殻の下に地下海があり、その下には多孔質の核がある。核にしみこんだ海水は潮汐加熱された核の岩石に触れることで暖められ、こうしてできた熱水が海底の熱水噴出孔から地下海に送り込まれる。熱水とともに有機物も地下海に混ざる。(中央)熱水に含まれる泡には有機物が集まり、海面まで運ばれる。海水は氷地殻の割れ目を満たしていて、泡で運ばれた有機物が薄い膜を作る。(右)海面で泡がはじけると有機物が拡散され、滴が氷に覆われて水煙とともに表面から噴き出す(注:中央図と右図は上下反転している)。クリックで拡大(提供:ESA; F. Postberg et al. (2018))

Postbergさんたちのシナリオによれば、有機物は地下海の海底にある熱水噴出孔から地下海に送り込まれる。これは地球の海底で発見されている熱水活動に少し似ている。地球の海では、深海の有機物は熱水噴出孔から上がる泡に効率的に集まって海面まで運ばれ、波しぶきで泡がはじけることで拡散していく。

研究チームでは、これと同じプロセスがエンケラドスでも起こっているかもしれないと考えている。深海から気体の泡が数十kmにわたって上昇することで有機物を運び上げ、氷地殻の下にある海面に薄い膜を作るのだ。泡が海面ではじけると、有機物の膜の一部が飛び散って塩分に富んだ海水とともに拡散する。この水蒸気がエンケラドスの表面で凍ると、有機物の小さな滴も氷で覆われ、凍った海水のしぶきと一緒に水煙となって放出されて、これがカッシーニに検出された、というわけだ。

「エンケラドスはこれからもしばらくは、この有機物の起源を明かしてくれないかもしれません。しかしこの謎解きは、将来の探査ミッションでなら手が届く範囲にあります」(Khawajaさん)。

今回のカッシーニによる成果は、2022年に打ち上げられ、2029年に木星到着を予定しているESAの木星探査機 JUICE(JUpiter ICy moons Explorer)にも重要なヒントを与えてくれるだろう。土星と同じように木星にも複数の衛星があり、最も大きな3つの衛星、エウロパ・ガニメデ・カリストには地下海があると考えられている。

「カッシーニでの経験のおかげで、木星系で何を探し、どのように調べればよいかがわかります。JUICEで生命の存在に適した天体の探査を続け、私たちの太陽系で生命が生まれる条件を探っていきます」(ESA Nicolas Altobelliさん)。

(文:中野太郎)