マゼラン雲同士の綱引きの勝者をハッブル宇宙望遠鏡が解明

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天の川銀河の周囲に存在するガス「リーディングアーム」の起源が大マゼラン雲か小マゼラン雲かについて、ハッブル宇宙望遠鏡による観測から答えが出された。銀河間の綱引きで大マゼラン雲が勝利し、小マゼラン雲からガスを引きずり出してリーディングアームになったようだ。

【2018年3月28日 HubbleSite

天の川銀河から約16万光年彼方の大マゼラン雲と20万光年彼方の小マゼラン雲は、いずれも天の川銀河の周りを回っている矮小銀河である。同時に、大小マゼラン雲はお互いの周りも回り合っており、重力的な相互作用によって相手から大量のガスを引きずり出している。

こうして引きずり出されたガスは、大小マゼラン雲と天の川銀河の間をつないでいる。大小マゼラン雲の動きに先行するように存在していることから「リーディングアーム(Leading Arm)」と呼ばれているこのガスの集まりは、天の川銀河の半分ほどの大きさをもち、年齢は10億歳から20億歳ほどとみられている。

リーディングアームは天の川銀河に勢いよく取り込まれつつあり、星形成の材料となっている。そのガスの起源が大小マゼラン雲のうちのどちらなのか、重力の綱引きに勝利して多くのガスを引き出したのはどちらの銀河なのかについては、何年も議論されてきた。

「一見、ガスを辿ると大マゼラン雲に行きつくように思えますが、私たちは異なるアプローチによってリーディングアームの起源を探りました。リーディングアームのガスの組成を調べ、それが大小マゼラン雲のどちらと合うか確かめたのです」(米・宇宙望遠鏡科学研究所 Andrew Foxさん)。Foxさんは2013年に、大小マゼラン雲の後ろにリボンのようにたなびくガス「マゼラニック・ストリーム」が両銀河からやってきたことを突き止めたが、今回は反対に、両銀河の前にあるガスを調べたわけだ。

天の川銀河とリーディングアーム、マゼラニック・ストリーム
横から見た天の川銀河のモザイク合成画像に、電波望遠鏡による画像(ピンクの擬似カラー)を重ね合わせたもの。リーディングアームは右上の破線内、マゼラニック・ストリームは下部の破線内で、マゼラニック・ストリームの右に大マゼラン雲(LMC)と小マゼラン雲(SMC)がある。下段は、リーディングアーム越しに見た3つのクエーサー観測から得られた、ガスの速度と吸収量を示したグラフ(提供:Nidever et al/NRAO/AUI/NSF/Mellinger/Leiden-Argentine-Bonn/LAB Survey/Parkes Obs/Westerbork Obs/Arecibo Obs/Feild/STScI/NASA/ESA/A. Fox/STScI)

Foxさんたちはハッブル宇宙望遠鏡(HST)の紫外線分光器「Cosmic Origins Spectrograph」を使って、リーディングアームの背景に存在する、数十億光年彼方に位置する7つのクエーサーからやってきた光のスペクトルを調べた。リーディングアーム中に存在する酸素や硫黄によって、クエーサーのスペクトルには吸収線が現れ、これはガス中の重元素量を測る良い指標となる。こうした特徴は紫外線でしか見えず、また紫外線は大気で遮られ地上からは観測できないため、紫外線で観測できる宇宙望遠鏡であるHSTの能力があってこその結果だ。

Foxさんたちはこの結果を、グリーンバンク電波望遠鏡などで計測したリーディングアームの水素のデータと比較した。「HSTとグリーンバンク望遠鏡とを組み合わせることで、ガスの組成や速度を測定でき、大小マゼラン雲のうちどちらの銀河がガスを供給しているのかを突き止められるのです」(米・テキサスクリスチャン大学 Kat Bargerさん)。

多くの分析から、ついに研究チームは、リーディングアーム内のガスの起源に一致する決定的な化学的証拠を見つけた。「ガスは小マゼラン雲のものと一致しました。つまり銀河同士の綱引きに勝ったのは、大マゼラン雲です。大マゼラン雲が小マゼラン雲から、大量のガスを引きずり出したのです」(Foxさん)。

リーディングアームからのガスは現在、天の川銀河の円盤を横切りつつある。どのようにしてガスが銀河内に取り込まれ星形成が促進されるのかに関する重要なケーススタディーであり、銀河にガスが降り積もる現場をまさに目の当たりにしている状況だ。将来、天の川銀河内に小マゼラン雲由来の物質を含む惑星系も誕生するかもしれない。

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