18億個の天体を含む「ガイア」最新データ公開
【2020年12月10日 ヨーロッパ宇宙機関】
ヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星「ガイア」の第3期データ初期リリース(EDR3)が公開された。2013年の打ち上げ以来、ガイアは望遠鏡を全天にくまなく向けるサーベイ観測であらゆる天体の位置や地球からの距離などを測定し続けている。その成果は過去に2回にわたってまとめられ公開されてきた。3度目となる今回のデータセットは分割して公開されることになっており、残りは2022年に公開予定だ。
EDR3のカタログには18億個以上の天体が含まれている。2018年4月に公開された第2期データ(DR2)から1億個以上増えた。18億個のうち約15億個の天体については色情報も含まれており、これはDR2から約2億個の増加だ。また、EDR3では天体の量だけでなく、観測データの質も向上している。
ガイアのEDR3を元に作られた全天マップ。色情報も反映されている。画像クリックで表示拡大(提供:ESA/Gaia/DPAC; CC BY-SA 3.0 IGO. Acknowledgement: A. Moitinho)
EDR3の公開と同時に、具体例を通じてデータの質をデモンストレーションするために、EDR3を利用した研究論文がいくつか発表されている。そのうちの一つは、天の川銀河の中心と反対方向(ぎょしゃ座付近)にある天体を分析したものだ。この方向は天の川銀河の円盤に沿った天体の動きを、星間物質による減光の影響を比較的抑えながら調べるのに向いている。
過去の研究では、天の川銀河は約100億年前に「ガイア・エンケラドス」と呼ばれる別の銀河と衝突したことが示唆されていた。EDR3のデータは、衝突前の天の川銀河の、今より小さかった円盤の痕跡を浮かび上がらせている。また、ガイア・エンケラドスとの衝突からもう少し後になって、天の川銀河の星に大きな影響を与えるもう一つの出来事があったこともわかってきた。数千万個の恒星からなる「いて座矮小銀河」の異常接近である。いて座矮小銀河は現在、天の川銀河に取り込まれつつあるが、3億~9億年前の間にも接近していた。このときは直撃こそしなかったものの、水に石を投げ込んだときの波紋のように、重力によって一部の星をかき乱したことが、ガイアのデータから示唆されている。
太陽系近傍恒星4万個の、今後160万年間での動きを白線で表示した全天マップ(提供:ESA/Gaia/DPAC; CC BY-SA 3.0 IGO. Acknowledgement: A. Brown, S. Jordan, T. Roegiers, X. Luri, E. Masana, T. Prusti and A. Moitinho)
このほかにも発表された研究成果は多岐にわたる。
天の川銀河の外、はるか遠方に存在するクエーサーの位置は、見かけ上動いている。これは、太陽系が天の川銀河の中で動いていることが原因であり、EDR3のデータからはその太陽系の動きが年々わずかに変化していることも突き止められた。
もっと近くに目を向ければ、EDR3をもとに太陽系近傍の恒星を33万1312個集めたカタログが作られた。これは太陽から100パーセク(326光年)以内に存在する恒星の92%と推測されている。従来の近傍恒星カタログに比べて、質・量ともに大幅に向上した。
天の川銀河の衛星銀河である大小マゼラン雲に含まれる星の動きを分析した論文では、大マゼラン雲に渦巻き構造が存在することや、小マゼラン雲から星が流出していることなどが明らかにされた。
大小マゼラン雲の星の分布を示した擬似カラー画像。大マゼラン雲(左)では内側のらせん構造などが見られる。赤、緑、青は、それぞれ老齢、中間年齢、若い恒星が集中していることを示す(提供:ESA/Gaia/DPAC; CC BY-SA 3.0 IGO. Acknowledgement: L. Chemin; X. Luri et al. (2020))
〈参照〉
- ESA:
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