大質量星の動きが示唆する小マゼラン雲の破壊過程

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小マゼラン雲内の大質量星の動きを調べた研究により、小マゼラン雲が大マゼラン雲の重力で引き裂かれつつあることや、小マゼラン雲が全体として回転していないことが明らかになった。

【2025年4月17日 名古屋大学

銀河同士が接近すると重力相互作用を起こし、銀河内での爆発的な星形成や銀河の変形、銀河同士の合体などが誘発されて、銀河の進化に大きな影響を与える。天の川銀河の衛星銀河である大マゼラン雲と小マゼラン雲も相互作用をしていて、2つの銀河の間には互いの作用によってできた水素ガスの橋のような構造「マゼラン雲流(マゼラニック・ストリーム)」が存在している。また、小マゼラン雲では相互作用の結果が星間物質の分布に強く反映されていて、さらに星間物質と若い星の空間分布との間に相関があることもわかっている、

大小マゼラン雲の銀河間の相互作用の証拠を特定するため、名古屋大学の中野覚矢さんたちの研究チームは小マゼラン雲に存在する大質量星に着目した。中野さんたちはヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星「ガイア」の観測データから、星の色と明るさに基づいて7000個以上の大質量星を選び出し、それらの動きを調べた。

その結果、大質量星が小マゼラン雲の東部では東に、西部では西に動く傾向が明らかになった。小マゼラン雲の東の手前(近傍)(※)に大マゼラン雲が存在していることから、この運動の傾向は大マゼラン雲に近づく星と遠ざかる星があることを示唆している。大マゼラン雲の重力によって小マゼラン雲が破壊されつつある過程が、大質量星の動きで描き出されたものだ。
※初出時「奥(遠方)」と記していましたが、大マゼラン雲のほうが近傍なので修正いたしました。

小マゼラン雲の大質量星の平均的な運動
小マゼラン雲の大質量星の平均的な運動をグループで区別した図、大質量星は銀河の東西で逆向きに動いている(提供:名古屋大学リリース)

また、大質量星が小マゼラン雲を公転していないことも明らかになった。小マゼラン雲で恒星が公転していない可能性は以前から指摘されていたが、星間ガスとともに動いていると思われる大質量星で、銀河全体で回転に従わない傾向が明らかになったのは今回が初めてだ。ガスや大質量星が銀河を公転していないのであれば、小マゼラン雲では渦巻銀河のような回転が存在しないと考えられる。

これまでは小マゼラン雲の銀河回転を仮定して、小マゼラン雲の質量が計算されてきた。そのため、もし小マゼラン雲が回転していない場合には質量計算に修正が必要となる。また、小マゼラン雲の質量や回転運動を前提として小マゼラン雲、大マゼラン雲、天の川銀河の過去の動きが推定されてきたことから、3つの銀河の過去の動きがこれまでの理解と異なっている可能性も生じる。今回の研究成果を踏まえた再検討が必要となるだろう。

今回の研究成果の紹介動画「相互作用銀河・大小マゼラン銀河~「星の運動から探る銀河の破壊過程」(提供:名古屋大学理学部)