変光星が明かす、小マゼラン雲の混沌とした内部運動

このエントリーをはてなブックマークに追加
小マゼラン雲に存在するケフェイド変光星の動きが、私たちに近い星と遠い星とで逆向きである様子が明らかにされた。以前の研究結果とは異なる運動で、銀河内のカオスな運動がうかがえる。

【2025年5月23日 名古屋大学

名古屋大学の中野覚矢さんたちの研究チームは先月、小マゼラン雲内の大質量星が銀河を引き裂くように、北西と南東方向に逆向きに動いているという研究成果を発表した。こうした研究で星の見かけの動きから速度を導出するには正確な距離を知る必要があるが、以前の研究では全ての星が20万光年に位置すると仮定されており、星の運動に大きな誤差が含まれている可能性があった。

小マゼラン雲
小マゼラン雲(撮影:nardisさん)。画像クリックで天体写真ギャラリー「小マゼラン雲」の検索結果ページ

そこで中野さんたちは、距離を正確に測定できる星の一種であるケフェイド(セファイド)変光星に着目した。このタイプの変光星は真の明るさと変光周期との間に一定の関係があることが知られていて、変光周期から得られた真の明るさと見かけの明るさとを比較することによって、その変光星までの距離を測ることができる。

中野さんたちは、ヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星「ガイア」が観測した4000個以上のケフェイドを用いて、小マゼラン雲内部のケフェイドの動きを可視化した。その結果、距離が近い星は北東方向に、遠い星は南西方向に動いている様子が示された。近い星と遠い星とが北東・南西の逆方向に運動していることが明らかになったのは初めての成果だ。

約4000個のケフェイドの動き
小マゼラン雲のケフェイドの動き(左上が北東方向)。矢印の長さは速度、色は距離を表す。緑色の星印(★)は18万光年より近いケフェイドの平均位置を、赤紫色の星印(★)は23万光年より遠いケフェイドの平均位置で、矢印はそれらの平均的な運動を表す(提供:名古屋大学リリース、以下同)

また、奥行き方向の速度がわかっているケフェイドのデータも用いて星の運動を可視化し、先行研究で報告された、小マゼラン雲を引き裂くような北西・南東方向の動きがケフェイドでも見られることを明らかにした。この運動は、南東に位置する大マゼラン雲に小マゼラン雲が引き裂かれていることを示すと解釈される。

ケフェイドの動き
小マゼラン雲のケフェイドの動き。南東(左下)は大マゼラン雲に向かって、北西は大マゼラン雲から遠ざかって動いている

近いケフェイドと遠いケフェイドの、北東・南西という逆方向の運動は、小マゼラン雲が大マゼラン雲に引き裂かれる方向とは異なっている。今回初めて発見された動きは小マゼラン雲に、大マゼラン雲による引き伸ばしだけではない異なるメカニズムが作用した結果と解釈できる。

過去の研究では、小マゼラン雲では星の距離が遠いほど奥行き方向の速度が大きくなると予想されていたが、今回の研究によって距離と奥行き速度にはほとんど関係ないことが示された。また、小マゼラン雲は奥行き方向に伸びた形状をしており、これは大マゼラン雲の重力の影響と考えられてきたが、今回の研究では、ケフェイドの距離に沿った運動は大マゼラン雲に引き裂かれる方向とは異なるという結果が得られている。天の川銀河の影響も含め、シミュレーションなどによる検証、研究がのぞまれる。

関連記事