天の川銀河の中心で起こった爆発、周囲のガスに痕跡

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天の川銀河周辺のガスの研究から、中心の超大質量ブラックホールがかつて爆発的現象を引き起こしていた可能性が示された。

【2020年6月10日 NASA

米・宇宙望遠鏡科学研究所のAndrew Foxさんたちの研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)を使った観測から、天の川銀河の中心に存在する超大質量ブラックホールが過去に爆発的現象を起こして、莫大なエネルギーを放出した証拠を発見した。

天の川銀河の中心核がかつて激しい活動を起こしていたという仮説は、既に「フェルミ・バブル」の研究から提唱されていた。これはNASAのガンマ線天文衛星「フェルミ」が2010年に発見した、銀河面から上下約3万光年の距離にそびえる高温の巨大なプラズマの泡構造である(参照:「天の川銀河の中心から広がる、なぞの巨大泡構造」「時速300万kmで広がる、天の川の巨大バブル」)。

研究チームの一員である豪・シドニー大学のJoss Bland-HawthornさんやFoxさんたちがフェルミ・バブルに基づいて推測したところによれば、爆発は約350万年前、人類がまだアフリカ大陸で進化の途上にあったころに起こったとされる。そのころ夜空を見上げれば、天の川の中心部分が不気味に光っているのが見えたことだろう。そのような爆発的現象を引き起こした原因としては、超大質量ブラックホールを取り巻くガスの円盤に太陽10万個に相当するほどの巨大な水素の雲が落ち込んだことが考えられる。

約350万年前の大爆発を地上から見た想像図
約350万年前の大爆発を地上から見た想像図(提供:NASA, ESA, G. Cecil (UNC, Chapel Hill) and J. DePasquale (STScI))

今回、Foxさんたちはフェルミ・バブルとは独立に天の川銀河中心核における爆発的現象の証拠をとらえている。

研究チームはHSTに搭載されている宇宙起源分光器「COS」を使って、天の川銀河のはるか遠方に位置するクエーサーからの紫外線スペクトルを観測した。この紫外線が天の川銀河周囲のガスを通過すると、特定の波長がガスの状態に応じて吸収されるため、減光した波長からガスの性質を調べることができる。

天の川銀河の周囲には、衛星銀河の大マゼラン雲と小マゼラン雲が通った跡である「マゼラニック・ストリーム」と呼ばれる、太陽1億個分もの水素を含むガスの流れがある。また両マゼラン雲の前方には「リーディング・アーム(先行腕)」というちぎれた雲のようなガスが伸びている。研究チームはマゼラニック・ストリームの背景に存在するクエーサー21個と、リーディング・アームを通して見えるクエーサー10個のスペクトルを調べた。その結果、マゼラニック・ストリームの水素は強力なエネルギーを受けてイオン化している証拠が見つかった一方、リーディング・アームの水素にはそのような形跡が見られなかった。

マゼラニック・ストリームは天の川銀河の南極方向を通っている。中心の超大質量ブラックホールが爆発的な増光を引き起こした場合、サーチライトのように強力な紫外線が円盤の上下(北極と南極)に向かって放たれたと考えられるので、これによってマゼラニック・ストリームの水素がエネルギーを受けてイオン化したと説明できる。

「これまで、フェルミ・バブルとマゼラニック・ストリームはお互い隔っていて無関係であり、天の川銀河のハロー(周縁の構造)の中で別の場所に位置して他人のように振る舞っていると考えられてきました。私たちは今回、銀河中心のブラックホールからの同じ強烈な輝きが、両者にとって大きな役割を果たしていることに気づいたのです」(Foxさん)。

銀河中心からの紫外線が遠くを照らす様子
天の川銀河の中心に存在する超大質量ブラックホールが放った紫外線が円盤の上下に広がる様子を示したイラスト。下(南)に広がる紫外線がマゼラニック・ストリームを照らしている(提供:NASA, ESA and L. Hustak (STScI))

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