マゼラン雲はかつて三つ子だった可能性
【2018年9月26日 ICRAR】
大マゼラン雲は地球から約16万光年と比較的近くにある小さな銀河で、南半球の夜空では肉眼でも見ることができる。
大マゼラン雲(撮影:Blackwood 22さん)。画像クリックで天体写真ギャラリーのページへ
大マゼラン雲に含まれる星々の大部分は地球から見て銀河の中心に対して時計回りに動いているが、反時計回りの星の存在も知られている。その星々の起源は大マゼラン雲の近くに位置する銀河の小マゼラン雲だとする説が過去に唱えられたものの、決め手に欠けるため、長年研究者を悩ませてきた。
豪・電波天文学研究国際センターのBenjamin Armstrongさんたちの研究チームは、その起源が未知の銀河と大マゼラン雲との合体かもしれないと考え、コンピューターモデルを使って銀河の合体を再現した。その結果、銀河同士の衝突が起こったあとに強い反時計回りが再現され、現在実際に観測される大マゼラン雲の様子と一致した。
大マゼラン雲と別の銀河との衝突を再現したシミュレーション動画(提供:Ben Armstrong, ICRAR/UWA)
この結果は、大マゼラン雲内の星団の年齢が二極化している理由も説明できる。「大マゼラン雲内の星団は、非常に若いか非常に年老いているかのどちらかで、その中間の年齢の星が存在しません。その理由として、他の銀河と合体した影響により大マゼラン雲で星形成が再開されたということが考えられます」(Armstrongさん)。
また、大マゼラン雲の形状も銀河同士の衝突・合体で説明できるかもしれない。「研究はまだ予備的なものですが、衝突や合体によって、あの厚い円盤状の形がもたらされたことが示唆されています」(Armstrongさん)。
〈参照〉
- ICRAR:Magellanic Clouds duo may have been a trio
- MNRAS Letters:Formation of a counter-rotating stellar population in the Large Magellanic Cloud: a Magellanic triplet system? 論文
〈関連リンク〉
- アストロアーツ 天体写真ギャラリー:マゼラン雲
関連記事
- 2022/03/16 星の誕生が分子雲に影響を与える範囲は狭い
- 2021/11/11 銀河団中の銀河が星の材料を失うメカニズム
- 2021/11/02 100億年前の宇宙で成長中の銀河団
- 2021/10/06 初期宇宙でもう星の材料を使い切った銀河たち
- 2021/06/17 星が誕生する環境は、銀河内の位置によって異なる
- 2021/04/21 赤ちゃん星は予想外に大食い?オリオン座大星雲の観測で判明
- 2021/02/02 銀河の衝突で活性化も沈静化もする中心ブラックホール
- 2021/01/13 衝突によって星形成能力を失う銀河
- 2020/12/10 18億個の天体を含む「ガイア」最新データ公開
- 2020/05/29 矮小銀河の衝突が天の川の星形成を促し、太陽も誕生させた可能性
- 2020/04/28 銀河衝突で刺激された超大質量ブラックホールから噴き出すジェット
- 2020/03/30 野辺山45m電波望遠鏡の電波地図から見えた星形成の現場
- 2020/03/18 天の川銀河外縁部の分子雲衝突候補天体の距離を精密測定
- 2020/02/28 オリオン座に潜む赤ちゃん星たちのポートレート
- 2020/01/30 彗星と星形成領域にリンを含む分子を検出
- 2019/12/09 太陽の400億倍、最重量記録のブラックホール
- 2019/11/26 天の川銀河最大級の星のゆりかごで見つかった多数の分子雲コア
- 2019/11/19 大質量星の形成現場、大マゼラン雲の「2羽の孔雀」
- 2019/07/31 星の生産工場はとても希少
- 2019/06/10 銀河の星形成は「見かけ」によらない