タイタンで起こる激しい嵐と、雲中の有毒なハイブリッド氷

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土星最大の衛星「タイタン」上の嵐が非常に激しいものであることがわかった。嵐の発生頻度はタイタンにおける1年あたり1回以下だが、それでも従来の予想をはるかに上回っている。また、タイタンの南極上空にある薄い雲の中に有毒なハイブリッド氷が存在することもわかった。

【2017年10月19日 UCLANASA

60個以上見つかっている土星の衛星のうち最大のものが「タイタン」だ。濃い窒素の大気に覆われており地表には液体が存在するなど、非常に興味深い特徴をもつタイタンで、また面白い発見が報告された。

NASAの土星探査機「カッシーニ」のデータによると、タイタンでは驚くほど激しい嵐が発生するようだ。発生頻度はタイタンでの1年(地球の29年半)で1回以下と比較的珍しい現象ではあるものの、これまでの予想を大きく上回っている。「1000年に1回ほどの現象だと思っていましたから、かなりの驚きです」(米・カリフォルニア大学ロサンゼルス校 Jonathan Mitchellさん)。

タイタン
土星の衛星「タイタン」。「カッシーニ」がミッションの最後に取得した画像のうちの1枚(提供:NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)

地球における水と同様に、タイタンではメタンが川や湖を作ったり豪雨となって降ったりする。モデルによれば、最も激しい嵐では1日あたり30cmのメタンが降るようだ。

カッシーニの観測から、タイタンには扇状地が存在することが明らかになっていた。扇状地はタイタンの南北両半球の緯度50~80度に位置しており、赤道付近に広がる砂丘や、高緯度地域に多く見られる湖や海といった地形の分布とは異なっている。こうした違いは、地域による降水量の違いに対応していると考えられる。観測データとコンピューターシミュレーションからは激しい嵐のほとんどが緯度60度付近で発生していることが示されており、嵐と扇状地に強い関係があることがうかがえる。

今回の発見はタイタン表面の地形を変化させる豪雨の役割を示すものであり、巨大な扇状地が見られる火星などにも同様のことが当てはまる可能性がある。豪雨と天体の表面との関係を理解することで、地球をはじめ天体の気候変動に関する理解が進むかもしれない。


また、カッシーニの観測データを用いた別の研究では、タイタンの上空に浮かぶ薄い雲の中に有毒なハイブリッド氷が存在する証拠が見つかった。雲は南緯約75度~85度の広い領域を覆っており、高度は約160~210kmで、対流圏に存在するメタンの雨雲のはるか上だ。タイタンの大気中で複雑な化学変化が起こっていることを示す新しい証拠であり、巨大な衛星の成層圏で雲が形成されていること、衛星の表面に多種多様な有機分子を運ぶのを助ける一連のプロセスの一部が起こっていることを示している。

カッシーニの赤外分光計が取得した雲のスペクトルに一致するような物質を地上の実験で探したところ、雲の中の氷は単純な有機分子であるシアン化水素(青酸)と大きな環状構造のベンゼンとが組み合わさったものであることがわかった。2つの物質は同時に凝結して氷の粒になったとみられている。

タイタンでは2005年のデータにも、冬の北極付近の雲で同時に凝結したと見られる2つの物質の氷が見つかっている。このときの物質はシアン化水素とシアノアセチレンで、高度150km以下の低い雲の中で作られたものとみられ、物質も作られた雲の高度も今回のものとは異なる。

研究チームではこの違いを、両極の季節変化に由来するものと考えている。今回の南極の高高度雲は南極の冬至の2年前、2005年の北極の低高度雲は北極の冬至の2年後にそれぞれ観測したもので、ガスの混合物や温度が変化したのかもしれない。