エンケラドスとエウロパ、「海のある世界」の新たな見識

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探査機「カッシーニ」による観測で、土星の衛星「エンケラドス」に生命のエネルギー源となりうる水素ガスが存在するらしいことが明らかになった。また、ハッブル宇宙望遠鏡は木星の衛星「エウロパ」で見られた噴出の新たな証拠を発見した。

【2017年4月17日 NASAHubbleSite

土星の衛星「エンケラドス」と木星の衛星「エウロパ」はいずれも、地表を覆う厚い氷の下に地下海が存在し大量の液体の水があるとみられている天体だ。土星探査機「カッシーニ」がエンケラドスで、ハッブル宇宙望遠鏡がエウロパでそれぞれとらえた、新たな探査結果が公表された。


カッシーニは2015年10月、エンケラドスの南極近くに見られるガスや氷の噴出の中を飛行して成分を探査した。この噴出は2005年にカッシーニが初めて見つけたものだ。分析の結果、噴出物の約98%が水、1%が水素、残りが二酸化炭素、メタン、アンモニアなどであることが明らかになった。

エンケラドスの噴出の中を飛行するカッシーニ
エンケラドスの噴出の中を飛行するカッシーニのイメージ図(提供:NASA/JPL-Caltech)

とくに重要なのが水素ガスの検出である。これまでの研究でエンケラドスの海底では熱水活動が起こっていると考えられてきたが、今回の結果はこれを独立に裏付けるものだ。海水と岩石との反応で水素が生じ、それが海水中に広がって地表から噴出したものが検出されたのだろう。

さらに、水素ガスは生命のエネルギー源となる可能性があるという点でも非常に重要な発見だ。もしエンケラドスの海に微生物が存在しているなら、大量の水素と海中に溶けている二酸化炭素とを結合させることによってエネルギーを摂取できると考えられる。

私たちの知る生命にとっての最優先必須材料は、

  • 液体の水
  • 代謝のためのエネルギー源
  • 炭素、水素、窒素、酸素などの化学物質

だ。カッシーニの探査から、小さな氷の衛星エンケラドスにこの3条件すべてがほぼそろっていることが示されたことになる。

「生命に必要なエネルギーの存在が土星の小さな衛星の海中で確認されたことは、生命の存在が可能な世界探しにおいて、実に画期的なことです」(カッシーニ・プロジェクト・サイエンティスト Linda Spilkerさん)。


一方、ハッブル宇宙望遠鏡による新たな成果は、2014年にエウロパで観測された噴出らしい現象が2016年にも同じ場所で写されたというものだ。2014年に観測されたものは高さ約50kmだったのに対し、2016年のものはエウロパの上空100kmにまで達している。

エウロパの噴出
エウロパで観測された噴出(提供:NASA/ESA/STScI/USGS)

噴出が見られた場所は暖かい領域に位置しており、ここには1990年代終わりに木星探査機「ガリレオ」が発見した割れ目らしきものが存在している。この噴出はエンケラドス同様、衛星内部からの水の噴出の証拠ではないかと推測されている。

もし噴出と暖かい場所に関係があるならば、氷の地殻の下から噴き出した水が周囲の地表を暖めているのかもしれない。あるいは、噴出した水が細かい霧のように地表に降ることで地表の粒子の構造に変化が生じ、熱をより長く保持できるようになって周囲との温度差が生じているとも考えられる。

NASAは探査機「エウロパ・クリッパー」を2020年代に打ち上げ予定だ。地球の近くにあるハッブル宇宙望遠鏡よりもはるかにエウロパに接近するエウロパ・クリッパーによって、カッシーニによるエンケラドス探査同様に噴出の正体や成分、地下海の活動などもさらに詳しくわかると期待される。

NASAによる「海の世界」の動画。地球だけでなくエウロパやエンケラドスにも海があるとみられ、他の天体にも氷や、水以外の海が見つかっている。太陽系外にも海の世界はあるに違いない(提供:NASA)