エウロパの水蒸気噴出を裏付ける21年前の証拠

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1997年に探査機「ガリレオ」の観測で得られたデータから、木星の衛星「エウロパ」の表面で水蒸気が噴出している可能性を示す新たな証拠が見つかった。

【2018年5月18日 NASA JPL

米・ミシガン大学のXianzhe JiaさんはNASAが2022年に打ち上げを予定している探査機「エウロパ・クリッパー」の観測装置を開発する研究者だ。このミッションでは木星の衛星「エウロパ」に生命が存在できる環境があるかどうかを探査することになっている。

このエウロパ・クリッパーミッションの会合でJiaさんは、2012年にハッブル宇宙望遠鏡(HST)が撮影した紫外線画像で、エウロパの表面から水が噴出している可能性が示唆されていることを知った。

「HSTの観測で水蒸気の噴出があるかもしれないとされている地点の一つは、1997年に木星探査機『ガリレオ』がまさにフライバイ(接近飛行)した場所でした。このフライバイはこれまでで最もエウロパ表面に近い高度まで接近したものです。そこで、私たちはガリレオの観測データに立ち返らなくてはと気づいたのです。ガリレオのデータに、水の噴出の有無を示すものが何かしら残っていないか確かめる必要がありました」(Jiaさん)。

同じように水の噴出が見つかっている土星の衛星「エンケラドス」では、噴き出した水蒸気に含まれる物質が電離することで、噴出場所付近の磁場に特徴的な変動が生じることが、探査機「カッシーニ」の観測からわかっている。そこでJiaさんたちは、同じような変動がガリレオのデータに記録されていないかを探した。

調査の結果、ガリレオに搭載された磁力計のデータから、ガリレオが通過したごく狭い領域で短い時間だけ、磁場の折れ曲がりが記録されているのが見つかった。この磁場の折れ曲がりは長らく原因がわかっていなかった。さらにプラズマ波分光計にも、局所的で強いプラズマ波の放射が記録されていた。これはプラズマの密度が短い時間にかなり増加したことを示すもので、水の放出があることを裏付けるデータだ。

木星、エウロパ、探査機「ガリレオ」の想像図
「エウロパ」に接近飛行する探査機「ガリレオ」の想像図。エウロパの表面から噴出する水蒸気がエウロパを取り巻く木星のプラズマと相互作用して磁力線(青色)が変化する様子を表す。磁力線の赤い部分はプラズマの密度が高い領域(提供:NASA/JPL-Caltech/Univ. of Michigan)

「これらの観測データは以前から存在していたものですが、その意味を理解するためには高度なモデリングが必要でした」(Jiaさん)。

Jiaさんは、ガリレオが観測した磁場とプラズマ波の変動データを、プラズマと惑星・衛星の相互作用をシミュレーションできる新たな3次元モデルに重ねた。さらに、HSTのデータから導いた噴煙の大きさの推定値をモデルに加えた。その結果、ガリレオのデータに見られる磁場とプラズマの変動は、数値モデルで再現された変動とよく一致することがわかった。

「今回の研究によってたくさんの証拠が揃い、エウロパに水の噴出現象が存在することを否定するのは難しくなりました。噴出現象が実在するのはおそらく間違いないと思われ、個人的には今回の結果は大きな転換点だといえます。この現象はもはや、遠方の画像に写ったぼんやりした信号ではないのです」(エウロパ・クリッパープロジェクト研究者 Robert Pappalardoさん)。

この発見はエウロパ・クリッパーミッションにとって歓迎すべきニュースだ。エウロパ・クリッパーは木星周回軌道を回りながらエウロパへの低空での接近飛行を行うことになっている。もしエウロパの地下海や湖から水蒸気が本当に噴出していれば、エウロパ・クリッパーは凍った水蒸気や塵を採取することができる。「噴出現象が実在し、エウロパの内部から出てきた物質を直接採取できれば、生命に必要な物質があるかどうかを突き止めるのも容易になります」(Pappalardoさん)。

エウロパ・クリッパーミッションでは現在探査機の軌道の検討を進めており、今回の成果はその議論にも影響を与えるだろう。

今回の研究成果を解説する動画(提供:NASA JPL)