エウロパの表面に食塩があった

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木星の衛星エウロパの表面に見られる黄色い模様は、海水の塩分の主成分で食塩としても利用されている塩化ナトリウムであることが明らかになった。

【2019年6月18日 ハッブル宇宙望遠鏡

1979年に木星へのフライバイを行ったNASAの惑星探査機「ボイジャー」や、1995年から7年間にわたって木星の周回観測を行った探査機「ガリレオ」のデータから、木星の衛星エウロパの氷の地殻の下には塩分を含んだ液体の水の層(地下海)が存在すると考えられている。

エウロパ
1997年に「ガリレオ」が撮影したエウロパ。紫・青・赤外線の3波長で撮影された画像から合成されている。左は自然な色調を示したもので、右は微妙な色の違いを強調したもの。左半球の黄色っぽい領域が「タラ領域」。右半球に見られる褐色の領域は水和塩や成分不明の赤い物質に覆われている。青みがかった白い部分はほとんどが水の氷からなる(提供:NASA/JPL/University of Arizona)

こうした推測は、赤外線の分光観測データから導かれたものだ。ガリレオは赤外線分光計でエウロパ表面の分光観測を行い、水の氷と硫酸マグネシウム(入浴剤に使われるエプソムソルトの主成分)と思われる物質のスペクトルを検出した。エウロパの氷の地殻は地質学的に若く、過去の地質活動の痕跡がたくさん残っているため、この塩類は地下海に由来するのではないかと考えられた。

「これまでの惑星や衛星の分光観測では、興味深いスペクトルはすべて赤外線の波長域にあると伝統的に考えられてきました。研究者が探す分子の大半は赤外線を放射するからです」(米・カリフォルニア工科大学 Michael Brownさん)。

「可視光線のスペクトルについては、エウロパの表面を高い精度で観測した例は過去にありませんでした。ガリレオにも可視光線の分光計は搭載されておらず、近赤外線分光計だけでした」(カリフォルニア工科大学 Samantha Trumboさん)。

TrumboさんとBrownさんたちが米・ハワイのW.M.ケック望遠鏡を使って、より高い波長分解能でエウロパの可視光線分光観測を行ってみたところ、硫酸マグネシウムだと思われていた物質は別のものである可能性が出てきた。ガリレオの観測で検出されたと思われていた硫酸塩の吸収線が、予想された波長域にまったく見つからなかったのだ。

「私たちは、これは塩化ナトリウムかもしれないと考えました。しかし塩化ナトリウムの吸収線は赤外線の波長域にはほとんど存在しません」(Brownさん)。

一方、NASAジェット推進研究所のKevin Handさんは、エウロパに似た条件の下で海の塩に放射線を照射する実験を行っていて、塩化ナトリウムに放射線を当てるとわずかに黄色みを帯びた色に変わり、可視光線の分光分析で検出できるようになることを発見していた。これは放射線によって結晶に格子欠陥ができて色を帯びるもので、色の悪い宝石に放射線を当てて人工的に色付けする処理などでもこの現象が応用されている。そして、この黄色い色はエウロパ表面の「タラ領域」と呼ばれる地域の色によく似ているのだ。

そこで研究チームではハッブル宇宙望遠鏡(HST)を使い、可視光線でエウロパを分光観測してみた。その結果、450nmの波長(紫~青)にはっきりした吸収線を同定することができた。この波長は放射線を受けた塩化ナトリウムのスペクトルに正確に一致している。これによって、タラ領域の黄色い色は放射線を受けた塩化ナトリウムによるものであることが確認された。

「20年以上前から、HSTを使えばこうした分析はできたはずでした。しかし誰もエウロパを調べようとは思い付かなかったのです」(Brownさん)。

今回の発見は、この塩化ナトリウムが地下海からもたらされたものだと保証するものではなく、単に氷とは違う物質がエウロパの氷地殻に積もっているという証拠にしかならない。だが研究チームでは、エウロパを地球惑星化学の面から再評価する必要があると考えている。

「硫酸マグネシウムであれば、単純に地下海の海底の岩石から海水中に溶け出したものと考えられますが、塩化ナトリウムがあるということは、地下海の海底で熱水活動が活発であることを示しているのかもしれません。つまり、エウロパはこれまで考えられていたよりもずっと地質学的に興味深い天体かもしれないのです」(Trumboさん)。

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