エンケラドスの地下海に大量のリンが存在

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探査機「カッシーニ」のデータと実験から、土星の衛星エンケラドスの地下海に生命の必須元素であるリンが大量に存在する証拠が見つかった。

【2023年6月16日 東京工業大学

土星の第2衛星エンケラドス(エンセラダスなどとも表記)は直径約500kmで、水の氷を主成分とする氷衛星だ。NASAなどが開発・運用した探査機「カッシーニ」によって、エンケラドスの南極域の割れ目から大量の水蒸気が間欠泉として噴出している様子が観測され、エンケラドスの地下には液体の海が存在することが確実だと考えられている。

エンケラドスの内部
2009年に「カッシーニ」が撮影したエンケラドスの間欠泉。この画像では30か所以上の噴出が確認された(提供:NASA/JPL/Space Science Institute

これまでの探査で、エンケラドスの水蒸気からは塩分・二酸化炭素・アンモニアや複雑な有機物が見つかっている。2015年には二酸化ケイ素の微粒子が検出されたことから、内部海は岩石質のコアと接していて、海底に熱水噴出孔が存在すると推定されている(参照:「エンケラドスの地下海に熱水環境」)。

エンケラドスの内部
エンケラドスの内部の想像図。水の氷でできた地殻と岩石質のコアの間に、深さ10km程度の液体の内部海があり、この海水がエンケラドスの南極域から噴出している。内部海の海底には熱水噴出孔があると推定されている(提供:NASA/JPL)

もし熱水噴出孔が存在するなら、エンケラドスには液体の水・有機物・エネルギー源という、生命の誕生と生存に必要な要素が全てそろっていることになる。このためエンケラドスは太陽系天体の中でも大きな注目を集めているが、生命に必要な元素のうち、どの種類の元素がどれだけ内部海に存在しているのかについては、これまでわかっていなかった。

独・ベルリン自由大学のFrank Postbergさんを中心とする欧米の研究チームは、カッシーニがエンケラドスの間欠泉の微粒子を分析したデータから、数百個の微粒子の組成を調べた。その結果、一部の微粒子にリン酸が豊富に含まれていることを発見した。その含有量から推定すると、エンケラドスの海水にはリン酸が1~20mmol/Lも含まれていることになる(mmolは1000分の1mol、1molは約6×1023個の分子数)。これは地球の海水に含まれるリン酸の数千~数万倍にもなる濃さだ。

この発見を受けて、東京工業大学地球生命研究所の関根康人さんを中心とする日本の研究チームは、エンケラドスの海水の組成を模した模擬海水と、海底の岩石コアを想定した炭素質隕石の粉末とを反応させる実験を行った。その結果、エンケラドスの海水はアルカリ性で炭酸イオンを濃く含んでいるために、リン酸が海水に溶け出して高い濃度になることがわかった。エンケラドスの海水には陰イオンとして炭酸イオンやリン酸イオン、陽イオンとしてカルシウムイオンなどが存在するが、エンケラドスの環境では炭酸イオンがカルシウムと結びついて「カルシウム炭酸塩」を作りやすく、一方で「カルシウムリン酸塩」のリン酸イオンはカルシウムを手放して海水に溶け出しやすいという。

関根さんたちが見つけた、アルカリ性で炭酸イオンが濃いという水環境の条件は、太陽から遠く離れた氷天体であればどこでも実現する可能性があり、土星の他の衛星や天王星・海王星の衛星、冥王星などに内部海があれば、そこでもリン酸の濃集は起こりうる。さらに、「はやぶさ2」が探査した小惑星リュウグウの母天体などでも起こるかもしれないという。

リン(P)は、炭素(C)・水素(H)・酸素(O)・窒素(N)・硫黄(S)などと並んで、地球の生命を構成する主要な元素の一つだ。DNAやRNAに含まれるだけでなく、細胞膜の材料であるリン脂質や、細胞がエネルギーを消費・貯蔵するのに使うアデノシン三リン酸(ATP)にもリンが含まれる。

しかし、現在の地球の海水に含まれるリンの量は非常に少なく、宇宙での組成比でもリンは炭素・酸素・窒素の1000分の1、水素の1000万分の1程度しかない。どうやってリン(リン酸)が濃く集まり、最初の生命の材料となったのかは謎となっている。今回の発見は、リン酸が濃集する環境が地球外に実在することを初めて示した大きな成果であるとともに、原始地球でもアルカリ熱水環境が生命の誕生に関わった可能性を示すものだ。