太陽の静穏領域の上空に潜む新たな磁場構造を気球観測で発見

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気球を用いた太陽観測プロジェクト「Sunrise-III」で、太陽表面の静穏領域の上空に想定を超える入り組んだ磁場構造が潜んでいることが示された。

【2026年10月5日 国立天文台 太陽観測科学プロジェクト】

太陽の表面には、黒点などが見られ磁場の強い「活動領域」と、磁場が比較的弱く穏やかに見える「静穏領域」がある。静穏領域にも無数の小さな磁場構造が存在し、その上空にあたる彩層にも磁場が存在する。しかし、静穏領域の上空の磁場は弱く、大気のゆらぎの影響を受ける地上望遠鏡で彩層磁場を測定することは困難だった。

太陽の大まかな構造
太陽の大まかな構造(提供:NAOJ/JAXA)

国際共同観測プロジェクト「SUNRISE」では、口径1mの望遠鏡を気球に搭載し、高度35kmの成層圏から太陽を観測している。成層圏では地球大気の影響をほとんど受けないため、高精度な太陽観測が可能になる。これまでに2009年と2013年に飛翔実験が行われ、2024年7月に3回目となる飛翔実験「Sunrise-III」が実施された。

Sunrise-III
(上)放球前の様子、(下)2024年7月に実施されたSunrise-IIIのスケジュール(提供:国立天文台 太陽観測科学プロジェクト)

Sunrise-IIIで気球のゴンドラに搭載された3つの観測機器のうち、国立天文台が主導して開発した近赤外線偏光分光装置「SCIP(SUNRISE Chromospheric Infrared spectroPolarimeter)」は、太陽表面(光球)から彩層にかけての磁場を切れ目なく観測することができる。国立天文台の久保雅仁さんを中心とする研究チームは、SCIPによる偏光観測から、太陽表面の大部分を占める静穏領域の上空に、従来の想定を超える入り組んだ彩層磁場が潜んでいることを示した。

太陽表面で集中した磁場は、上空の彩層へ向かって広がり、「キャノピー」と呼ばれる構造を形成する。研究チームがデータを分析したところ、キャノピーの内部に細く伸びる糸状の磁場構造が多数存在することが発見された。また、一部では周囲とは逆の極性を持つ構造も確認された。

静穏領域における光球と彩層の磁場分布
静穏領域における光球(左)と彩層(右)の磁場分布。赤が正極、青が負極を表す。光球で磁場が集中した領域に対応する彩層の磁場は光球より広がっていて、周囲と逆の極性を持つ糸状の磁場構造(緑の丸)も点在している(提供:NAOJ/Sunrise-III/SCIP-Team)

さらに、独・マックス・プランク太陽系研究所のPatrick Ondratschekさんを中心とする研究チームの数値シミュレーションにより、太陽表面の運動によってねじられた磁力線が、観測されたような糸状の磁場構造を彩層で形成していることも明らかになった。

数値シミュレーションで再現された彩層磁場分布
数値シミュレーションで再現された彩層磁場分布(左)。周囲と逆向きの磁場を持つ糸状の構造が見られる。磁力線を上から見た様子(右上)と横から見た様子(右下)から、ねじれた磁力線が複雑に絡み合っていることがわかる(提供:MPS/Sunrise-III)

異なる向きの磁場が隣り合う領域では、磁力線のつなぎ替え「磁気リコネクション」が起こり、磁気エネルギーが熱へ変換される可能性がある。今回の発見は、彩層やコロナがどのように加熱されるのか、そのメカニズム解明に向けた重要な手がかりとなる。

また、総合研究大学院大学の内藤由浩さんを中心とする研究チームは、Sunrise-IIIで太陽の縁を詳細に観測し、太陽表面から上空へ伸びるジェット状構造「スピキュール」の磁場をとらえることに成功した。スピキュールは太陽表面から上空のコロナへエネルギーを運ぶ担い手と考えられており、その磁場分布が高さとともに変化することが示された。

太陽の縁部分の彩層の明るさと彩層の視線方向の磁場分布図
太陽の縁部分の彩層の明るさ(上)と、彩層における視線方向の磁場分布(下)。スピキュールにおける磁場の高さ方向の分布がわかる。(黒線)太陽の縁の位置、(赤)観測者から遠ざかる方向の磁場、(青)近づく方向の磁場(提供:NAOJ/Sunrise-III/SCIP-Team)

今回の成果は、太陽表面から彩層を経てコロナへどのようにエネルギーが運ばれているのかを定量的に解明するための突破口となると期待される。

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