太陽から吹き出す放射線粒子の振る舞いを複数の探査機で観測

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複数の宇宙探査機の観測データとシミュレーションを組み合わせることで、太陽フレアで放出された放射線粒子が太陽系内を伝わる様子がとらえられた。

【2026年4月17日 海洋研究開発機構

太陽では、「フレア」や「コロナ質量放出」と呼ばれる突発現象によって、高エネルギーの電子や原子核(太陽放射線)が放出されることがある。惑星間空間には、渦を巻いた放射状の磁力線が太陽から外へと広がっていて、太陽からの荷電粒子はこの磁場に沿って太陽系の中を伝わり、ときには地球にも到達して人工衛星や人間の宇宙活動などに脅威をもたらす。こうした現象を予測する「宇宙天気予報」にとって、太陽放射線の振る舞いを理解することは重要だ。

2022年3月30日に発生した太陽フレア
2022年3月30日にNASAの太陽観測衛星「SDO」がとらえたクラスX1.3の太陽フレア(太陽面の右上方)の極紫外線画像。太陽フレアはX線の強さに応じて、下からA、B、C、M、Xの5つのクラスに分けられる(提供:NASA/GSFC/SDO

惑星間空間で太陽放射線をとらえるには、太陽から飛来する粒子の経路、つまり磁力線上に探査機や天文衛星がいる必要があるが、1機の宇宙機だけでは得られる情報はあまり多くない。ただし、近年ではたくさんの探査機が惑星間空間で活動しているため、これらを利用すれば1つの現象を多角的にとらえられると期待できる。

JAMSTEC数理科学・先端技術研究開発センターの簑島敬さんたちの研究チームは、2機の探査機の観測データとシミュレーションを組み合わせる手法を使い、2022年3月30日に発生した太陽高エネルギー粒子の放出現象を解析した。この現象の発生時には、太陽から約9000万km(約0.6天文単位)の距離に日欧の水星探査機「ベピコロンボ」が、また地球の公転軌道上(太陽から約1億5000万km)にはNASAの太陽観測衛星「STEREO-A」があり、両機はほぼ同じ磁力線上に位置していたため、放出された太陽放射線粒子をほぼ同時に観測できた。

現象当時の両探査機の位置
現象当時のSTEREO-A (1)、地球 (2)、ベピコロンボ (3) の位置。中心に太陽があり、北から見た図。(提供:海洋研究開発機構リリース)

両機のうち、太陽からより遠いSTEREO-Aでは、粒子数が短時間で変動する時間(先行成分)が1時間ほど続いた後、多くの放射線粒子が検出される時間(主成分)がみられた。一方、太陽に近いベピコロンボでは主成分しか観測されなかったが、その変動の様子はSTEREO-Aのデータとよく一致していた。ベピコロンボでは、探査機の視野などが原因で先行成分を観測できなかったようだ。

簑島さんたちがこれらのデータをさらに詳しく解析したところ、現象の前半では太陽の近くで生成された粒子が周囲の影響を受けずにそのまま伝わったと解釈できる一方で、現象の後半については、ベピコロンボからSTEREO-Aまで粒子が到達するのにかかった時間が単純なモデルよりも遅れていることがわかった。

観測された陽子の量の時系列
ベピコロンボ(a, b, c)とSTEREO-A(d, e, f)で観測された太陽放射線の陽子の量の時間変化

そこで簑島さんたちは、シミュレーションの途中に実際の観測データを埋め込むことでシミュレーションの精度を上げる「データ同化」という手法を使い、ベピコロンボの位置で観測された太陽放射線粒子のデータを使ってシミュレーションを補正しながら、STEREO-Aの位置で観測される粒子の時間変動の様子を予測し、実際のSTEREO-Aの観測データと比較した。

その結果、粒子が検出され始めた最初の4時間を除き、STEREO-Aの位置で実際に観測された粒子数の変化をシミュレーションでほぼ再現することに成功した。

また、このシミュレーションを使って粒子の「平均自由行程」(粒子が散乱されずに直進できる平均距離)という量の時間変化を推定したところ、現象が進むとともに平均自由行程が短くなることが明らかになった。これは、ベピコロンボを通過した粒子が次第に周囲の影響を受けながらステレオに到達したことを示唆している。

シミュレーションと観測結果の比較
(a)STEREO-Aの位置で観測された陽子の量の時間変化をシミュレーションしたもの(灰色)と実際の観測データ(黒の実線)。(b)データ同化の手法で推定された、粒子の平均自由行程の時間変動。(c)STEREO-Aの磁場観測から間接的に推定された、平均自由行程の時間変動

将来、人類の活動範囲が地球磁気圏の外へと広がれば、太陽活動で放出される高エネルギー粒子が人間に与える影響はさらに大きくなる。このような粒子が「いつ・どこに・どの程度」到達するかを予測することは重要な課題だ。今回の成果は、複数の宇宙機で得た観測データとシミュレーションをデータ同化で組み合わせる手法が、こうした精密な宇宙天気予報を実現する上での基礎になりうることを示すものだ。

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