彗星でも「オーロラ」が発生する

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探査機「ロゼッタ」の観測によれば、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星を包むガスの中では、地球などのオーロラと同じ仕組みで遠紫外線が発生している。

【2020年9月28日 ヨーロッパ宇宙機関NASA JPL

地球のオーロラは、太陽から流れ込んでくる荷電粒子(太陽風)が磁気圏を経て大気に衝突することで、大気中の粒子を輝かせる現象である。同様の原理で発生するオーロラは、他の惑星や衛星でも観測されている。そして、どうやら彗星でもオーロラの一種が発生しているようだ。

遠紫外線(紫外線の中でも特に波長が短い電磁波)の「オーロラ」が観測されたのは大きさ約3kmのチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(67P:以降CG彗星)である。同彗星では2004年に打ち上げられたヨーロッパ宇宙機関(ESA)の探査機「ロゼッタ」が2014年8月から2016年9月まで周回飛行して、彗星の核や周辺環境を精密に観測していた(参照:「ロゼッタ、彗星に衝突しミッション終了」)。

CG彗星の核
「ロゼッタ」がとらえたチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の核(提供:ESA/Rosetta/NAVCAM)

CG彗星を包むガス(コマ)が遠紫外線で輝いていることは以前から知られていたが、これまでは地球で言うところの「大気光」と同じメカニズムだと推定されていた。すなわち、太陽からの光(特に紫外線)がコマの中の水分子などに当たって電子を放出させ、その電子が別の水分子などに衝突することで紫外線で輝かせているというわけだ(参照:「ロゼッタ、彗星のコマで起こる分子分解プロセスを解明」)。

しかし、英・インペリアル・カレッジ・ロンドンのMarina Galandさんたちの研究チームが、ロゼッタに搭載されていた複数の観測装置のデータを組み合わせて分析した結果、コマのガスにエネルギーを与えていたのは太陽からの光ではなく、オーロラと同じように太陽風だという結論に達した。水などの分子に電子が衝突するという段階は同じだが、その電子はコマの中で紫外線によって作られるのではなく、太陽風に含まれていた電子が直接ぶつかっているらしい。

CG彗星でオーロラが発生する仕組み
CG彗星でオーロラが発生する仕組み。左の太陽から放出された太陽風が彗星のコマに到達すると電子(赤)が加速され、水分子に衝突して分解させ、そこから紫外線が放たれる。画像クリックで拡大表示(提供:ESA (spacecraft: ESA/ATG medialab))

電子などの荷電粒子がガスに衝突してオーロラを発生させるには、ある程度加速される必要がある。地球などの惑星では磁気圏がその加速を担うが、彗星にはその磁気圏がない。それでも、彗星のコマと太陽風の相互作用によって荷電粒子を加速することができるという。「衛星、惑星、彗星では磁場環境がそれぞれ大きく異なりますので、それら全てでオーロラが見られるというのは実に面白く、興味をひかれることです」(Galandさん)。

彗星のオーロラは、彗星自体の環境のみならず、オーロラを引き起こす太陽風についての理解を深める上でも役立ちそうだ。太陽の放射が宇宙環境に与える影響の理解が進めば、究極的には、人工衛星や探査機、月や火星へ旅する宇宙飛行士を守ることにつながるだろう。

オーロラ発生の解説動画(提供:ESA (spacecraft: ESA/ATG medialab))

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